施設を提供 共同利用も −日本原子力研究所理事長 岡崎俊雄氏
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人材育成や研究開発の現状と課題について、元科学技術庁(現文部科学省)事務次官で日本原子力研究所理事長の岡崎俊雄氏に聞いた。
―原子力工学課程の学生が減っていますね。
まだ決して悲観すべき状況とは思っていない。確かに学部レベルで学生を集めるのは難しいが、大学院では原子力は総合科学として機械や電気、化学など幅広い人材を引き付けている。原子力発電から放射線利用まで含めた産業規模は八兆円もある。核融合や放射性廃棄物の処理・処分などチャレンジングな技術は多く、魅力は十分だ。
―どんな対策に取り組んでいますか。
例えば、東京大は今回の法人化で大学院を中心に改革。原子力工学にいくつかのコースを設けた。電力会社や国の原子力安全・保安院など実務に携わる人に専門的知識を持ってもらう専門職大学院を構築し、国際的な人材を育てるコースも組み込んだ。原研も東京工大や大阪大など九大学と連携大学院を設け、客員教授を派遣している。京都大の原子炉のように今後は大学が大きな施設を維持するのは大変。われわれの施設を提供した共同利用を考えている。
―研究開発の現状は。
まず原子力の全体状況で課題を抱えているのは確か。東京電力のトラブル隠し問題や東海村臨界事故など大変残念なことが起きている。意識調査でも三分の二の人が原子力が必要と認識しているのに、逆に同じかもう少し高い比率で安全性に不安が持たれている。今直面している安全性などの短期的な課題と、今後三十年、五十年という長期的な課題の二つに分けて取り組む必要がある。
―具体的にはどんなテーマが焦点でしょうか。
今の原子力界が抱えている深刻な悩みを反映し、原研は重点化した安全研究に取り組んでいる。これまで起こった事故の究明、対策や安全規制のベースとなる指針づくりに役立てるデータ収集。それに加え、核燃料サイクルや原子炉の高経年化対策、使用済み燃料の再処理など産業界と協力した技術的支援もしている。われわれは今の時代にあった安全研究はどうあるべきかきちんと明示し、成果は社会に還元して説明責任も果たさないといけない。
―長期的な研究課題はどうでしょうか。
もう一つ大事なのは、高速増殖炉や核融合炉、水素社会を目指した高温ガス炉の開発だ。中でも水素製造がポイントになるだろう。間違いなく十五年か二十年後には水素社会が来る。
水素製造にはいくつかの方法があるが、炭酸ガスを排出しないで水素を手に入れるため、高温ガス炉はいい貢献ができる。原子力にとどまらず、化学プラントメーカーやユーザーなど幅広く声をかけながら研究していきたい。日本の水準は世界でも先頭にあり、米国やフランスなど国際的にも協力して水素社会を目指す方向へ進めていきたい。
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