日本からの報告 原子力を問う
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専攻の学生 減少傾向
 
 「雇用のミスマッチ」影響

 原子力工学課程がある全国の大学・大学院で学ぶ学生が減っている。二〇〇二年度の卒業生は、一九九五年度と比べて三割以上減少した。原子力の事故・トラブルによるイメージ低下に加えて、せっかく学んでも、それを生かせる電力会社やメーカー、研究機関など原子力関係の採用が卒業生の三分の一程度という「雇用のミスマッチ」などが影響しているようだ。

 文部科学省原子力課によると、二○〇二年度に全国の原子力工学課程の学部や大学院を卒業・修了した学士、修士、博士は計四百六十一人。前年度より八十人少なく、一九九五年度の六百八十二人と比べると二百二十人余りも減っている。

 内訳は、学部の卒業生が二百二十一人で、九五年度と比べて半減。修士は二百人前後でほぼ横ばいで推移し、博士はやや増加傾向なのに対し、学部の卒業生の減り方が目立っている。

 日本で原子力工学科や原子核工学科といった原子力工学課程は、原子力基本法が制定された翌年の五六年に東海大に原子力工学専攻が設けられたのが最初である。五七年には京都大、大阪大など国立大の大学院で原子力教育が始まり、人材育成が本格化。現在、国立大では北海道大から九州大までの旧七帝大と東京工業大、神戸大、私立大では武蔵工業大、東海大、近畿大の計十二大学に原子力工学課程が設けられている。

 七〇年代までは原発の新増設が多かったこともあり、原子力分野は学生の人気を呼んでいた。だが、八六年の旧ソ連のチェルノブイリ原発事故をきっかけに向かい風となり、学生が減少傾向に転じたという。

 九一年に大学設置基準が緩和され、従来の縦割りの学部や大学院が大学科・系に束ねられる中、優秀な学生獲得の狙いも込めて原子力の名前がついた学科・専攻の名称変更が相次いだ。システム量子工学や量子エネルギー工学などへの名称変更が多く、大学院で名称変更しなかったのは京都大や大阪大など四大学しかない。

 四月からスタートした国立大の法人化では、原子力教育の弱体化が懸念されている。それに対し、原発や研究施設などが立地する地域では、地元大学が原子力教育を積極的に実施しようとする動きも出ている。

 茨城大は、日本原子力研究所や核燃料サイクル開発機構などの協力で研究者育成を目指し、大学院に応用粒子線科学専攻を新設。福井大は、フランスの原子力大学などをモデルに大学院に原子力・エネルギー安全工学専攻を設けた。

 一方、原発を持つ電力会社やメーカー、研究機関の採用は、修士課程修了者が年間約二百人に対し、七十人―八十人ぐらいと三分の一にとどまるのが実態だ。

 電力会社やメーカーなどでは、電力自由化や原発新増設計画の遅れなどもあって、採用はなかなか増やせない状況にある。学生の四分の三ぐらいが原子力関連分野への就職を希望するとみられる中、雇用のミスマッチ状態が続く限り、人気回復は厳しいようだ。


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