日本からの報告 原子力を問う
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かさむ処理費 推進見直し論

 原子力発電所の使用済み燃料を再処理し、取り出したプルトニウムなどを再び燃料として利用する核燃料サイクル政策が揺れている。柱となる高速増殖炉の開発が原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故以来、行き詰まっているうえ、再処理や放射性廃棄物の処分など原子力発電の後処理(バックエンド)費用が約19兆円もかかると試算され、見直し論が出ているためだ。原子力委員会が来月から次期の原子力開発利用長期計画(長計)の策定に取り組む中で、核燃料サイクルの扱いが最大の焦点となる。(編集委員・宮田俊範、写真も)

増殖炉開発も滞る

 下北半島の青森県六ケ所村にある日本原燃の核燃料サイクル施設。原発の燃料となるウラン濃縮工場や海外から返還された高レベル放射性廃棄物の貯蔵管理センターなどが稼働している。中でもひときわ目立つ巨大な施設が二兆千四百億円をかけて建設中の再処理工場だ。

 工事の進ちょく率は95%で、二〇〇六年七月の運転開始を目標にしている。〇一年に使用済み燃料プールで不正溶接による水漏れが起きるなどトラブルが続き、稼働時期が予定より一年遅れた。原因究明や対策を講じるためストップしていた使用済み燃料の搬入はようやく来月三日から再開される見通しで、佐々木正社長は「品質保証の総点検を手掛けるなどプールを元に戻すのに時間がかかった。やっと次の段階に移れる」と一息つく。

 だが、新たな火種も抱えている。再処理工場が稼働すれば核燃料サイクルが本格的に動き出すことを意味するため、政策そのものを見直そうとする論議がわき上がっている。今月八日に青森市で開かれた集会で自民党の河野太郎衆院議員が「運転前に一度立ち止まって国民的論議を深めるべきだ」と訴えるなど、再処理工場が稼働するタイミングを控えて、見直し論が与党や原子力関係者の一部にも広がっている。

 論議の的となっているのがコスト問題である。電気事業連合会が昨年十一月、バックエンド費用が総額十八兆八千億円かかると試算したことから、このまま核燃料サイクルを推進することについて経済性の観点で火がついた。

 このコストは最終的に電気料金の形で家庭の負担となる。そのため使用済み燃料を再処理せず、そのまま地下に埋めて処分するワンススルー方式(直接処分)の方が安いのでは、と指摘する声が出た。

 「電力業界は核燃料サイクル事業に不退転の決意で臨んでいる。コストが高いと言われても、それは再処理工場が四十年稼働し、それから廃止するまでの数十年間分の合計で、一年単位でみたら決して高くない」と佐々木社長は反論する。

 ただ、再処理工場が稼働しても処理できるのは年間八百トン。全国の原発五十二基からは年間千トンを超す使用済み燃料が出ており、「全量再処理」路線を掲げる長計に沿えば、第二再処理工場を建設する必要がある。

 だが、第二再処理工場を造ればさらにコストが膨れ上がるため、佐々木社長も「現時点では検討されていない」と認める。四月にあった日本原子力産業会議の年次大会で電力業界から「現状では使用済み燃料の扱いは再処理と中間貯蔵が半々ぐらいではないか」とする見方が出るなど「全量再処理」路線は既に現実味を失っている。

 再処理工場は来月にもウランを使ったテスト、来年には使用済み燃料を使ったアクティブ試験を予定。それをすべてこなして本格稼働を迎える。そのつど地元と安全協定を結ぶ必要もあるなどクリアすべき課題は多く、再来年の稼働目標について佐々木社長は「現状では厳しいかもしれない」と口元を引き締めた。

 核燃料サイクルは、使用済み燃料を再処理し、高速増殖炉で燃やすサイクルを半永久的に繰り返す。ウランの可採年数は現行では約六十年とされており、燃やした以上の燃料を生み出す仕組みの高速増殖炉がなければ、石油や天然ガスと同じく資源が枯渇し、サイクルは回らない。肝心の高速増殖炉だが、もんじゅが一九九五年にナトリウム事故を起こして停止しているため、開発のめどが立たない状態にある。

 高速増殖炉の開発を盛り込んだ核燃料サイクルが原子力政策に盛り込まれたのは六七年から。当初は一〇年ごろにも実用化する見通しだったが、もんじゅの事故に加え、昨年一月に名古屋高裁金沢支部で原子炉設置許可を無効とする判決が出て最高裁で係争中だ。

 今月十九日からスタートした福井県のエネルギー研究開発拠点化計画策定委員会。県は原子力と地域産業の共生を図る計画を来年一月をめどにまとめるのに合わせ、もんじゅの運転再開の前提となる改造工事を施すかどうかを判断する。県が了承すれば、それから約二年後に運転再開の運びになるという。

 西川一誠知事は「核燃料サイクルの見直し論が出ており、もんじゅの位置づけが揺れているのではないか」とし、国が今後、高速増殖炉の開発にどう取り組むのか再確認する必要を説く。

 核燃料サイクルは二〇〇〇年十一月に立てられた現行の長計では「再処理して回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用していくことを基本とする」とされているが、原子力発電―再処理―高速増殖炉という一連の流れがほころんでいるのは確か。来月から始まる次期長計の策定では、再処理とワンススルー方式とのコスト比較なども実施しながら、来年にはまとめられる予定である。これまで約四十年間、一度も見直されることのなかった核燃料サイクル政策について、検討のメスが入るのは初めてである。








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