日本からの報告 原子力を問う
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初の本格実施 高浜が先陣に

 原子力発電所の使用済み燃料を再処理して取り出したプルトニウムを一般の軽水炉で燃やすプルサーマル計画が動き始めた。関西電力が2007年度に高浜原発3、4号機(福井県高浜町)での実施を目指しているのをはじめ、九州、四国電力も既に計画を地元に申し入れている。核燃料サイクル政策では高速増殖炉が本命だったが、1995年の原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故で実用化のめどが立たなくなった今、プルサーマルがわき役から主役へと躍り出た形である。(編集委員・宮田俊範、写真も)

教訓糧に安全対策

 福井県の最西端に位置する高浜町。若狭湾に突き出た小さな半島の中ほどに、プルサーマルを実施予定の高浜原発3、4号機がある。

 鈎(まがり)孝幸所長は「プルサーマルといっても、原子炉に何か工事を施す必要はなく、これまでと同じ状態。だから、安全性についてもこれまでと何ら変わらない」と淡々と説明した。

 プルサーマルは、プルトニウムを軽水炉(サーマルリアクター)で燃やすことから名付けられた造語である。一般的には、プルトニウムとウランを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料を、燃料全体のうち三分の一から四分の一ほど装荷して燃やす仕組みだ。

 国内の軽水炉でのMOX燃料の使用実績は、福井県内の美浜原発1号機(美浜町)で四体、敦賀原発1号機(敦賀市)で二体しかない。燃料の四分の一、四十体を入れる高浜原発は事実上、日本で初めてプルサーマルを実施する原発になる。

 その関西電力はかつて苦い経験を味わっている。一九九九年にMOX燃料が搬入されて実施目前まで進みながら、燃料を製造した英国核燃料会社(BNFL)の品質管理データねつ造事件によって計画延期に追い込まれたからだ。そのあおりで全国の電力会社のプルサーマル計画もストップする事態を招いた。

 それから五年―。今年三月二十日に福井県知事と高浜町長から事前了解を得て、再び計画が動きだした。岸田哲二副社長は「われわれはある意味で被害者だったが、BNFLに対する管理・監督責任は免れず、多くの反省点が残った。今回は、再び同じ事態を起こせば日本で二度とプルサーマルが実施できなくなるという覚悟で臨んでいる」と口元を引き締めた。

 地元が事前了解の理由として挙げた改善策は、@各部門から独立した品質・安全監査室の設置A製造期間中に社員をMOX燃料工場に常駐させ、直接チェックB契約や製造、輸送など各段階ごとに検査や監査を実施し、それが合格しなければ次のステップに進まない―ことなどである。

 具体的には、MOX燃料の製造はBNFLではなく、フランス・コジェマ社のメロックス工場に発注。製造ルールが不十分な場合は修正させ、製品のデータを分析して適正かどうか確認する。製造前、輸送前、原子炉への装荷前といった段階ごとに国の検査や確認を受け、製造中の監査などの際には第三者機関の立ち会いも実施する。

 こうした対策については、高浜原発の従業員が地元に説明して回った。人口一万二千人、四千百世帯の町内で昨年八月から、計五十八回の説明会を開催。戸別訪問も四割に当たる千七百戸で実施した。鈎所長は「高浜原発では過去三十年トラブルらしいトラブルがなかったこともあり、プルサーマルは危ないといった否定的な意見はほとんど聞かれなかった」と計画再開に胸をなで下ろした。

 核燃料サイクル政策では長年、高速増殖炉が主、プルサーマルが従の位置づけで、プルサーマルはあくまで高速増殖炉が実用化するまでのつなぎ役とされてきた。だが、原型炉「もんじゅ」がナトリウム漏れ事故を起こして開発に行き詰まったことから、政府は九七年にプルサーマル推進を閣議了解。電気事業連合会は二〇一〇年までに全国の十六―十八基の原発でプルサーマルを実施する計画を打ち出した。

 関西電力では、隣の大飯原発(大飯町)でもプルサーマルを実施する予定。九州電力は二〇〇九年度に玄海原発3号機(佐賀県)、四国電力は二〇一〇年度をめどに伊方原発3号機(愛媛県)で計画中だ。このほかに中国電力や東北電力など原発を持つ全国の電力九社と日本原子力発電、電源開発の電力卸二社もプルサーマルを手掛ける予定である。

 ただ、電気事業連合会の計画が達成できるかといえば、厳しいのが実情だ。特に最大手の東京電力の場合、福島第一原発3号機(福島県)で九九年、柏崎刈羽原発3号機(新潟県)で二〇〇〇年に実施予定だったが、BNFL事件の余波でストップ。さらに柏崎刈羽原発の地元、刈羽村で〇一年に住民投票があり、反対票が過半数を占めた。

 〇二年八月にはトラブル隠し問題が発覚。このため、いったんは事前了解していた福島県の佐藤栄佐久知事は「東京電力の行為には県民みんなが怒りを感じている。事前了解については既に白紙撤回されたものと考えてもらってよい」と厳しく指摘するなど実施のめどが立たない状況にある。

 これまで電力各社が海外に再処理を委託して取り出したプルトニウムは約三十三トン。このほかに国内に五・四トンある。青森県六ケ所村の再処理工場が二〇〇六年七月に予定通り稼働すれば、さらに保有量が増える。八キロで核兵器が製造可能といわれる中、日本はこの膨大なプルトニウムをいかにして減らせるか。初のプルサーマル実施を控えて、大きな課題が突き付けられている。








運転開始して40年の京都大の炉。米国がかかわる燃料問題で休止する危機を迎えている(大阪府熊取町の京都大原子炉実験所)
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