日本からの報告 原子力を問う
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2020年に4万本 地層処分探る

 国内52基の原子力発電所の運転に伴って、高レベル放射性廃棄物が増え続けている。「ガラス固化体」に換算して既に約1万7000本あり、2020年末には約4万本に達する。この「電気のごみ」を地中深く埋める最終処分に向けて、原子力発電環境整備機構(NUMO)は02年12月から、全国で最終処分施設の建設候補地の公募を始めた。放射性物質が漏れないよう地震を起こす活断層や火山などを避けて選定。1万年以上にわたって埋設する遠大な計画になるだけに、地元の合意形成が成否の鍵を握る。(編集委員・宮田俊範、写真も)

埋設候補地を公募

 青森県六ケ所村にある日本原燃の核燃料サイクル施設。その一角で操業する高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの床に、百六十個のオレンジ色のふたが並んでいる。その下には縦穴があり、高さ一・三メートル、直径四十センチ、重さ五百キロの金属製円筒形容器が縦に九本ずつ、計八百九十二本収納されている。

 容器の中身は、国内の原発から出た使用済み燃料をフランスや英国に委託して再処理し、プルトニウムなどを取り出した後の廃液とガラスを混ぜてガラス固化体にしたものだ。一九九五年から順次、日本に返還され、ここで保管されている。

 製造間もないガラス固化体は、二十秒そばにいただけで死亡するほど強い放射線量がある。表面温度も三百度近く、三十―五十年間貯蔵して冷やす。案内してくれた広報渉外室の佐々木一美課長は「床は厚さ二メートルのコンクリート、ふたの下には鋼鉄製の栓があり、放射線を完全に遮断できる。だから普段着のまま、ふたの上に立っても大丈夫」と強調した。

 高レベル放射性廃棄物は同センターで保管されているだけにとどまらない。国内の原発が過去三十年以上にわたって燃やし、各サイトで保管中の使用済み燃料をガラス固化体に換算すると、〇二年末現在で計一万六千六百本に上るという。

 同センターと同じ敷地内にあり、〇六年七月の稼働を予定する再処理工場。佐々木正社長は「フル稼働すれば、年間約八百トンの使用済み燃料を再処理できる。これは出力百万キロワット級の原発では約三十基分の使用済み燃料に当たる」と説明した。

 原発一基当たり年間約三十本の高レベル放射性廃棄物が発生する。したがって、再処理工場から年間約一千本が生み出されていく計算になる。

 さらには再処理工場で処理し切れず中間貯蔵に回される使用済み燃料や今後、増設される原発の運転分も加わる。NUMOは「今後十年で年間千百―千四百本ずつの割合でガラス固化体が増えていく」と想定している。

 年間約六百トンもたまり続ける高レベル放射性廃棄物。この「電気のごみ」はどう処分すればいいのか―。

 家庭ごみや一般の産業廃棄物なら大半を燃やしたり、埋め立て処分できる。だが、高レベル放射性廃棄物にはセシウム、ストロンチウム、アメリシウム、テクネチウムなど半減期が数十年程度から百万年以上のさまざまな放射性物質が含まれ、強い放射線を出す。放射能レベルが天然ウランと同程度まで下がるには一万年以上かかり、その間は生活環境から確実に遠ざけておく必要がある。このため、世界各国が研究に取り組み、実施を目指しているのが地下三百メートル以上の安定した地層に埋設する「地層処分」である。

 具体的には、人の手が及びにくい地下五百―千メートルの地層に坑道を掘る。ガラス固化体を金属製の特殊容器(オーバーパック)に入れ、さらにその周囲を粘土で覆い、岩盤の中に埋める。

 NUMOは「地上施設で保管しようとすれば管理コストがかかり、災害に遭う危険性も高い。安定した地下で人工、天然の多重バリアを設ければ、確実に放射性物質が漏れ出さない仕組みができる」と主張する。

 日本で地層処分の研究がスタートしたのは七六年から。核燃料サイクル開発機構が旧動力炉・核燃料開発事業団の時代から担当し、九九年には「国内で地層処分は可能」とする報告書をまとめた。ただ、金属性容器を腐蝕させて放射性物質が漏れ出す原因をつくる地下水の動きをはじめ、地下環境について完全に解明できたわけではない。

 岐阜県瑞浪市にある同開発機構の超深地層研究所。昨年七月から、地下千メートルまで主縦坑(直径六・五メートル)と換気縦坑(同四・五メートル)の二本を掘る工事が進んでいる。〇九年度ごろの完成を目指し、地下五百メートルと千メートルの二地点で地下水の流れや圧力、温度などの地下環境を探る計測坑道が設けられる。

 伊藤洋昭・研究調整グループリーダーは「地中は実際に掘ってみないと分からないことが多い。岩盤の裂け目に沿って地下水がどう動くのかなど、最終処分の安全確保に向けてデータを収集し、それを分析していく」と狙いを語る。

 同様の施設は北海道幌延町でも着工されている。地上と地下千メートルとは高速エレベーターで結ばれ、一般の見学者も受け入れる。伊藤グループリーダーは「地下空間に東京タワー三つを縦に並べたような施設になり、最終処分に関心を持つ自治体住民をはじめ、地下について広く理解を深めてもらう場にしたい」と意気込む。

 NUMOはこうした研究成果を基に最終処分施設の安全性を高め、計画を軌道に乗せる構えだ。公募に応じた自治体の中から慎重に建設地を選定した後、実際にガラス固化体を地下坑道に搬入して最終処分をスタートさせるのは、約三十年後になる。









海外から返還されたガラス固化体を保管する高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター。ふたの下に892本が収納されている(青森県六ケ所村)
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