日本からの報告 原子力を問う
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「運転第一」の姿勢 問題
−原子力安全委員会委員長 松浦祥次郎氏

   東京電力のトラブル隠し問題の背景や国の対応などについて、原子力安全委員会委員長の松浦祥次郎氏に聞いた。

 ―あらためて原因をどう分析しますか。

東電が出した報告書が示しているように、現場には早く検査を終わらせ、運転に復帰したい気持ちが強かった。トラブルが見つかっても安全に大きく関係ないのなら黙って対処しておけばいいという考えもあった。  重要なのは、何が最も大切かという価値判断。原発は潜在的にまかり間違えば大災害を起こす可能性があり、第一に誠実に物事を行い、安全を確保しなければならない。次に安定供給や経済性という順序。それなのに、とにかく運転が第一という感覚があったのが問題である。

 ―なぜ、そんな感覚を持ったのでしょう。

 これが起こったのは一九九〇年代の初めで、電力需給が厳しいから早く運転したいという気持ちに陥り、それで現場が自分たちで勝手に判断してしまった。価値判断は勝手に変えていいものではなく、会社全体でもそうした認識がなかった。

 ―原子力ムラといわれる閉鎖組織が背景にあったとも指摘されます。

 組織は往々にして目標より構成員の利益を重視してしまい、悪い意味で共同体化する。それがムラになるいうことだ。そういうムラ的なものをなくすには、本来の目的を常に認識し、情報公開によっていつも外から見られている仕組みをつくらないといけない。

 ―国も反省が残りました。

 安全委員会も含めて、原発の設計・建設時の基準をそのまま長期運転後も保つべきだ、という過剰なことを求めていた。機械は時間がたてば性能の劣化が起きる。それをどう評価し、どう安全確認しながら運転するか、という合理的基準が明確でなかったことが、電力会社が自分たちの都合がいいように解釈する事態を引き起こした。

 ―その反省から維持基準が導入されましたが、傷があっても本当に大丈夫なのでしょうか。
 例えばシュラウドのひびが将来どう拡大するか、これまで相当データがたまっているから、ほぼ誤りなく予測できる。原発は建設時に相当な安全余裕度を設けており、海外での実績も踏まえているから心配はない。ただ、シュラウドのひびの問題と格納容器の気密漏えい率データの改ざん問題は別。後者は明確な法律違反でもってのほかだ。

 ―国の規制組織ばかり肥大化するとの批判もあります。

 面白いことに、米国議会では日本の仕組みの方が効率的で米国では肥大化しているという報告書が出ている。重要なのはせっかくつくった仕組みをちゃんと機能させることだろう。それによる成果を積み上げ、国民の信頼を取り戻すことが大事だ。




「「合理的基準が明確でなかったことが、電力会社が都合がいいように解釈する事態を引き起こした」と語る松浦氏
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