情報公開徹底が不可欠
東電のトラブル隠し問題を契機に昨年十月からスタートした「維持基準」。これまで原発の運転開始後も新品同様の状態を要求されていたことが一因になったという反省から導入された。世界各国ではいち早く実施されているが、その定着は国や電力会社がどれだけ誠実な姿勢で運用していくかにかかっている。
高温、高圧の環境の下で稼働する原発の部品は少しずつ傷ができたり、摩耗して劣化していく。だが、これまでは原発の設計・建設時に適用する技術基準はあっても運転開始後に当てはめる基準はなかった。
つまり、どれだけ長期間運転しようと新品の状態を保っていなければならず、傷が見つかれば即、補修や部品交換をし、運転が長期間止まることを意味していた。それが「安全に問題ない程度なら国に報告せずに運転を続けた方がいい」「黙って部品を交換しておけば済む」とひびの存在を隠し、記録も改ざんする東電の不正行為につながったといえる。
その結果、再発防止の意味も込めて導入されたのが「健全性評価」だ。部品の劣化が原発の将来の安全性にどう影響を与えるかを評価するもので、その評価に使用する判定基準が「維持基準」と呼ばれている。
具体的には、日本機械学会の「維持規格2002」を採用。ひび割れや摩耗などが見つかれば、一定期間後にどの程度拡大するかを予測する。その予測された大きさによる強度が安全水準を上回れば引き続き使用でき、それを下回れば補修や取り換える仕組みだ。
自動車のタイヤに例えると、溝の深さが維持基準に相当する。すり減ってスリップサインが出れば事故を招くため交換しなければならないが、まだ溝がたっぷり残っていれば大丈夫である。
維持基準導入については「従来より安全性が低下するのではないか」と不安視する人がいるのも確かである。だが、既に同様の基準は米国で一九七〇年代から採用され、フランスや英国、ドイツなど原発を持つ大半の国々で導入済みである。
米国の場合、米国機械学会の規格を使用。傷が見つかっても次の検査がある十八―二十四カ月後まで問題ないと評価されれば、そのまま運転継続が認められている。
ただ、維持基準を確実に実行するには、これまで以上に傷などを正確に測定しなければならない。その評価もできる検査員の大量養成やそのシステム構築などの課題解決はこれからだ。
国と電力会社が正確に維持基準を守っていることを示すには、傷などについての情報公開の徹底が前提となる。そして少しでも安全に疑いが生じたら、ためらわずに運転停止や部品交換という安全重視の対策を選ぶ慎重さも求められる。
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