2001/6/10 病棟は、産科と婦人科が同じ場所にある。新生児室では生まれたばかりの赤ちゃんがズラリと並び、若い妊産婦さんはカラフルな花柄のパジャマに身を包み、華やかな感じが漂っている。見舞客も「おめでとう」一色のムードだ。一方で、頭にタオルの帽子をかぶって、静かに歩く中高年の女性たちがいる。 「あっ、私はこの人たちの仲間なんだな」。視線はそちらへ向いた。病室で、荷物を整理する。「ここで、半年か…」という思いと、「がんばらなくちゃ」という思いが入り交じって、一人になるとため息が出た。なんとなく疲れも出て眠くなった。ベッドでひと寝入りする。 私の場合、危機に出合ったとき、深く考えるといい結果が出ないような気がしている。とりあえず寝ることで充電し、やり過ごすタイプなのだ。 しばらくすると看護婦さんがきた。テキパキと採血、血圧測定し、検査スケジュールを説明していく。すべてが仕切り直しなので、前の病院でやった検査も、再度受けなければならない。あらためてCT検査などのスケジュールが組まれた。私は検査をされる度に、「何を調べるの」「結果はいつ出るの」と聞いてみた。 検査部門の技師さんには「この機器はいつ入ったの」「いくらぐらいの値段なの」と尋ねた。質問しなければ、患者にはさっぱり分からない。なんでも聞いてみる。CT検査の結果が出て、主治医が前の病院で撮影したものと比べている。驚いたことに、画像の鮮明さが全然違うではないか。医師が高い診断能力を要求されることは当然だ。しかし、機器自体の精度の高さも必要なことが、目の前で理解できた。 いろいろな検査結果がそろったところで、「いつから、抗がん剤はじめるかのー」と主治医。抗がん剤についての情報は、病院で働く友人の看護婦が届けてくれていたし、数冊の本も読んだ。一番の問題は、副作用がどう出るか、個人差もある。 「先生、ゲーゲー吐くほどひどいですか?」 「分からん、やってみんと」 「困ったなあ。キャンセルできない仕事があるんですけど」 「同じ卵巣がんで、同じ薬を使っている人が一人おる。直接、聞いてみんさい」 私は、その人の病室を訪ねた。
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