町中に笑顔 きずな健在 島根・墨付け神事 | '02/1/15 |
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振る舞い酒の途中で、無病息災を祈って墨を塗られる片江地区の住民。塗る女性にも笑みがこぼれた |
日本海に臨む港に大漁旗を飾ったとんどが立つと、法被姿の男衆と墨袋を手にした女たちが方結(かたえ)神社に集まってきた。互いの無病息災を願い、顔にべっとりと墨を塗り付け合うと、みこしを先頭に路地に繰り出した。疲れた漁村が、つかの間のにぎわいを取り戻す。
海に生きた島根県美保関町片江地区の人々は、正月七日の墨付け神事を二百五十年前から伝えてきた。「チョーサダー」。掛け声を聞きつけ、家から顔を出す子どもやお年寄り。どの顔も黒く塗られ、笑顔を返す。みこしが立ち寄る所、振る舞い酒の輪ができる。
ふろ場やかまどのすすだった墨のもとは炭の粉末や墨汁に代わった。動力船底引き網の発祥地として栄え、港を埋めた片江船団の姿は今はない。変わらないのは根強い信仰と地域のきずなだろうか。
路地を抜けると、前日までのしけがうそのような穏やかな海が広がった。「今年はいい年なる」。親当(おやと)と呼ばれる世話役を務めた宮崎昭さん(61)は、澄み渡る青空に思いを重ね合わせた。
(写真・荒木肇、文・山中和久=中国新聞)
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