中国新聞
2003.9.15

 「里海 いま・みらい」  2.カブトガニ

滅びないでカブトガニ
埋め立て・汚染で激減

 

瀬戸内海の主な
繁殖確認場所と保護団体
地図サムネール「瀬戸内海の主な繁殖確認場所と保護団体」

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観察会に参加した子どもたちに、カブトガニの幼生を見せながら生態などを説明する原田代表(右)(8月10日、山口市の山口湾)

≪カブトガニ≫甲殻類ではなく、サソリやクモに近い剣尾類。瀬戸内海西部と九州北部の海域に生息。水産庁が1998年、環境省が2000年に絶滅危ぐ種に指定した。北アメリカ大陸の東海岸とアジア大陸東、南海域にも分布している。

繁殖確認 西瀬戸中心に15カ所

 「生きた化石」と呼ばれるカブトガニの保護運動が、瀬戸内海各地で広がっている。人類誕生の前から変わらぬ姿で生き抜いてきたが、ここ30年ほどで激減。埋め立てや水質悪化などが進んだためとみられる。豊かな海のシンボルでもあるカブトガニの絶滅を食い止めようと、住民らは幅広い活動を展開している。

 住民ら 広がる保護運動

 カブトガニはかつて、広い範囲に生息していた。しかし、現在、確認されている主な繁殖地は瀬戸内海西部で11カ所、九州北部の玄界灘沿岸を含めても全国15カ所程度とされる。

 カブトガニの繁殖には、産卵場所の砂浜や、ふ化した幼生が育つ干潟、藻場が不可欠。この30年余りで埋め立てなど開発が進み、生息環境は激変した。

 下関市の王喜海岸で定点観測する山口カブトガニ研究懇話会によると、産卵にやってくるつがいは、調査を始めた1993年には139いた。その後は40前後で推移し、今年は34にとどまった。代表の高校生物教諭原田直宏さん(51)=山口県山陽町=は「危機的な状態」と訴える。

 保護活動に取り組む住民団体は、78年発足の「日本カブトガニを守る会」(本部・笠岡市)に続き、90年代以降に相次いでできた。現在、瀬戸内海西部の8団体が産卵調査や幼生観察会、海岸清掃などを続ける。

 竹原市の「カブトガニがすみやすい環境を守る会」はゴルフ場計画をきっかけに発足。「陸の開発が海の環境も損なう」との考えからだ。

 住民たちは調査結果を県などに報告し、保護を求めてきた。95年に広島県が希少種に、山口県が02年、岡山県が今年、絶滅危ぐ種に指定。カブトガニを守るため、山口県平生町など人工海浜を整備する自治体も出てきた。環境学習で取り組む学校が出るなど運動の輪は広がっている。

 日本カブトガニを守る会が保護活動を続ける笠岡市・神島水道の繁殖地は唯一、国の天然記念物(71年指定)。自然繁殖が確認できない時期が続き、2年前にやっと幼生が確認された。土屋圭示会長(75)は「一度失った生息環境を取り戻すのは難しい。水質浄化の取り組みなど市民の理解と協力が必要」と運動の広がりに期待する。

 筑波大の関口晃一名誉教授(83)は「保護運動はかつてない盛り上がりをみせ、内容も充実してきた。ただ海はつながっているのに地域ごとの取り組みにとどまる。連携した調査や情報の共有など広域的なネットワークも必要だ」と指摘する。