太田川漁協 追跡調査も
アユの天然遡上(そじょう)復活を目指す太田川漁協(広島市安佐北区、栗栖昭組合長)は23日、産卵用の親魚(体長25センチ前後)を放流する。海と川を行き来するアユ本来のサイクルを取り戻す試みで、本格的な復活作戦は瀬戸内海沿岸でも初めて。広島県内の研究機関と連携し、ふ化したアユの追跡調査も計画している。
アユは通常、河川で産卵し、ふ化した稚魚は海に出る。餌が豊富で外敵の少ない浅場で育ち、再び川へ戻り産卵する。太田川では、堰(せき)の設置などの河川改修や流域の開発で環境が変化。産卵時期が早まるなど生態も変わり、遡上するアユがほとんど確認されなくなっている。
同漁協はこれまで、稚魚(同10センチ前後)を中心にした種苗放流に主眼を置き、主に川で育ったアユで漁獲を維持してきた。しかし、管内の中、下流域は近年、冷水病などの影響で不漁続き。漁獲が放流量の3分の1程度にとどまっている。
さらに、種苗放流は自然の産卵、ふ化、流下と遡上、産卵という再生産にほとんど結びつかないことも判明。漁協職員谷口勝彦さん(57)は「ただ放流し、その分を獲(と)ればいいという考えを捨て、海と川の力を最大限生かし、天然アユがいる本来の姿、原点に戻りたい」と太田川のアユ復活に意気込む。
親魚放流に向け、漁協は川へ遡上した天然アユを捕獲し、人工ふ化させた。現在、養魚場で雌雄合わせて4300匹の親魚を育てている。安佐北区、安佐南区にまたがる高瀬堰から下流約10キロ以内とされる本来の産卵場に放流する予定で、親魚が産む卵は約一億五千万粒とみている。
回帰する割合を0・3%と想定すると、五年間続ければ、アユのサイクルが回復、持続すると予測。漁協職員田村龍弘さん(48)は「親魚放流なら不可能な数字ではない」とみる。
親魚の放流効果をより高めるため、研究機関に協力を求めて流下、遡上数の確認や広島湾での分布などの追跡調査を予定。遡上の障害要因や海での詳しい生態などの把握を目指す。
広島県水産試験場内水面部の米司隆部長(54)は「広島県は放流への依存率が他県に比べて高い。種苗放流による不漁が続く中、本来の循環を回復する試みであり、川での新たな資源管理につながる」と注目している。
《減ったアユの天然遡上》 太田川での減少要因としては(1)堰の設置(2)早まった産卵時期(3)海の浅場の減少―の3点が考えられる。
堰への遡上用魚道は、本流ではほぼ整備された。しかし、下るための機能が万全でなく、大半のアユは下流に行けない。特に高瀬堰はその下流に産卵場があり、産卵する親魚の流下を妨げている。
かつては十月下旬以降だった産卵時期は約1カ月早まった。琵琶湖産のアユ放流や、現在の産卵場である高瀬堰上流付近では発電所から導水路を通じて冷たい水が流れ込むため、とされる。仮にふ化して海に出ても、この時期は水温が高いため死亡率が上がり、他の魚類に捕食される可能性も高い。
また広島湾では埋め立てなどが進み、成育場所の浅場が減少。天然遡上計画も、干潟保全や再生など海の環境整備も同時に進めていく必要もある。
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