海の悪化 埋め立てが原因
開発阻止にデータ蓄積
神戸大発達科学部讃岐田 訓教授(62)=水圏環境科学
姫路市沖の播磨灘。調査用の漁船から海岸線を望む。「この辺りが一番ひどいんや」。示す先には工場群。海底から船に引き揚げた泥の中から小さな底生生物を見つけようとしたが、「あかん。ナッシングや」。首を振った。
播磨灘の水質・海底の泥質調査を始めたのは1974年。当初は、大きな漁業被害を出した赤潮(72年)の原因などを科学的に立証するのが狙いだった。総合調査団の解散(93年)で一時中断したが、不漁にあえぐ漁業者らのSOSにこたえて4年前に再開。住民や漁業者でつくる「播磨灘を守る会」と一緒に春と夏の年2回、調査を続ける。
「若い世代を含め、できるだけ幅広い態勢で続けたい」。同行する神戸大のゼミ生や姫路工業大の教員、学生らに、これまでに培ったノウハウを伝えている。
「海の知識はゼロに等しかった」自分が調査団の第1回調査に参加したのは、32年前。神戸大の助手だった。
きっかけは、70年冬、京都大であった講演会。「君たちの学ぶ科学や技術が瀬戸内海にどんな影響を与えているか、直視してはどうだ」。当時、公害研究の第一人者だった宇井純・東京大工学部助手(現・沖縄大名誉教授)の鋭い指摘に刺激を受けた京都大農学部の学生や助手の呼びかけで、調査団が組織された。
漁村を訪ね歩いた。油臭い魚や奇形の生物に大きなショックを受けた。国や企業を相手に命を張って闘う漁業者の存在も知った。
「海がどう変わったかを語れるのは、彼らだけ。科学的な裏付けは、大学におる者にしかでけへん。これぞ研究の原点と思った」と振り返る。
播磨灘の水質自体は、調査を始めたころに比べ改善した。が、漁獲量は激減している。「排水はゼロにはならない。海底に有機質がたまる一方や」。夏に発生する海底の貧酸素状態に拍車を掛け、生き物を激減させている、とみる。
注ぎ込む川や湖にも目を向ける。「潮流を妨げ汚染物質をためる」として埋め立て事業への反対運動を展開。大阪府内を流れる淀川水系や琵琶湖の汚染についても85年から市民と調査している。
「海がこうなった大きな原因は埋め立て。使っていない場所を、磯や浜に戻すのが先決」と、再生策は明快。これまでの経験から、「行政を動かすには、海の変化を示す科学的データの蓄積が欠かせない」と調査継続の必要性を訴える。
来年2月に定年退職を迎える。「大学と市民の連携が、海をないがしろにする行政や企業の歯止めになるはずやから」。一市民として、調査に参加を続けるつもりだ。
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