市民球場ならではの味

奥田民生ライブを仕切った
高波秀法さん(35)
=広島市安芸区

 

   広島市民球場が昨年最もにぎわったのは、シーズンが終わった後の十月三十日だった。東区出身のミュージシャン奥田民生さん(39)のライブに、全国から約三万人が詰めかけた。球場が一九五七年に誕生して以来、初のコンサート。イベント会社に勤める高波さんは、地元の責任者を務めた。
 奥田さんとは十年来のつきあい。広島東洋カープと市民球場へのひとかどの思い入れは分かっていた。「〇〇ツアーの一環じゃなく、市民球場だからこそ。音楽イベントの枠を超えたニュースにして、全国に広島を知らしめようと思った」
 演出は野球の形式をそっくり使った。事前には、球場への看板設置、始球式…。当日は、場内アナウンサーが放送し、奥田さんが気ままに歌い出す曲目はスコアボードに表示した。全員参加のジェット風船、胴上げ…。
 観客も応えた。アンコールではウエーブが自然に起きた。二階席も巻き込み、途切れずに二周半回った。相手チームのファンもいる野球ではありえない光景だ。
 ちょっと懐かしい雰囲気をひっくるめて、まるごと市民球場。「多機能で効率のいいドーム球場とは、比べられない味があった。東京から来たミュージシャンや業界人みんながうらやましがった」と振り返る。
 「市民球場ライブ」に向けて動き始めたのは一昨年夏だった。音量や野球の日程との絡みから、市は門前払いと聞いていた。「だめでもともと」と真正面から打診した。
 当初は断るつもりだったという球場管理事務所の入船信之所長(58)も、生ギター一本、シーズン終了後の設定と、奥田さんの熱意を知るにつれ、応援に回った。ライブを収めたDVDを見て、「このきれいな球場はどこかいなと思うた」と笑う。老朽化はしていても、輝かせる余地はまだあると強く感じた。
 毎日のように球場に通った高波さんは言う。「ものすごく愛着がわいたから、建て替えとなると複雑な気持ち」。こぢんまりした人間くささは残したいと願う。

【写真説明】「いい雰囲気だったですねえ」。奥田さんが出したライブの告知看板の前で入船所長(右)と語る高波さん(広島市中区の市民球場)

たかなみ・ひでのり
 広島市安芸区出身。子ども時代は「友の会」に入り、一人でも市民球場へ行ったカープファン。大学中退後、夢番地広島オフィス(中区)へ。エリック・クラプトンやGLAYなどを担当。

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