建設と運営 官民分担を

日米の野球ビジネスに詳しい
小林至さん(37)
=東京都北区

 

 球場の建設は自治体の支援で、運営は球団で―。日米で野球ビジネスを学んだ立場から、ずっとそう主張している。巨額の建設費を回収できるほど、スポーツビジネスはもうからないからだ。
 福岡ドーム(現ヤフードーム)を例にとる。建設費七百六十億円。年間の利子負担九億円、減価償却二十一億円、固定資産税七億円…。「建設費が半分でも、民間が耐えられる額ではない」
 だから日本で野球文化を守るなら、米国式しかないと考える。大リーグで一九九二年以降にできた十五球場の総建設費のうち税金が占める割合は65・6%。使用料は高くて年間一億円程度という。球団は球場を自由に使って、収益を上げる。
 ただ、国内で官の制約は大きい。球団にとっては使用料の負担に加え、看板や飲食・物販による増収もままならない。第三セクターの大阪ドームは、急傾斜で死角が多いため野球だけでなく音楽関係者にも評判が悪い。設計段階から球団が関与し、運営も米国流に任せてこそ、ビジネスが展開できるとみる。
 米国がここまで優遇するのは、球団が都市の魅力に直結しているからである。その代わり、球団と選手は「主役はお客さん」を肝に銘じて、地域貢献する。そうでなければそっぽを向かれる。
 こうした持論を書いた近著「たかが…されどプロ野球!」(宝島社)を読んだソフトバンクの孫正義社長から電話があり、ホークス入りを打診された。研究者の自由を手放すのに迷いはあったが、「一度は内部で勉強したい」と年明けからホークス球団取締役と大学助教授の二足のわらじを履く。
 史上三人目の東京大出身選手としてロッテへ。「下手くそだが、おまえの目を見て採った」。入団テストで金田正一監督はそう言った。プロ野球は光り輝く世界だった。今二十二歳だったら、入りたいと思うだろうか。輝きを取り戻す手伝いがライフワークと任じる。
 広島の新球場建設を目指す「たる募金」の賛同人でもある。「野球が世間話のネタであってほしい。広島はそういう街でしょう。福岡のようにチームを失う経験をしないと、きずなを確かめられないのでは情けない」。広島の官民の挑戦に期待を寄せる。

【写真説明】「広島ならではのやり方で、家族全員が存分に楽しめる球場を造ってほしい」。カープ球団へのあいさつを兼ね、広島市民球場を訪れた小林さん

こばやし・いたる
 神奈川県出身。小学生時代の夏休みは、広島市内で映画館を経営するおじの家に滞在し、市民球場に通っていた。3年間のプロ生活後に渡米し、米コロンビア大で経営学修士(MBA)を取得。江戸川大助教授、ホークス球団取締役。

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