規制に風穴 魅力を演出
広島市の都心は、西端の太田川放水路を含めると六本の川が流れる。中心市街地のうち水面が占める面積は12・6%。「水都」と呼ばれる大阪市や福岡県柳川市の一・五倍になる。しかし市民の多くが、川の魅力を生かしきれていないもどかしさを感じている。
中国新聞社の読者アンケートで、都心で最も好きな場所は「川、水辺の風景」が一位となった。季節や時間帯、潮の高さなど具体的な条件を挙げて、特定の場所を書き込んだ読者が目立った。
緑化や遊歩道の整備が進み、ジョギングや散歩、自転車通勤のルートとして愛される水辺。しかし治水重視の観点から、これまでは「できないことだらけ」だった。
地元の声を受け国は、公共性が高いケースに限っていた水辺の占用を、特例として広島市で民間にも認めることにした。規制の中で試行してきたオープンカフェや舞台などが、今より楽しくなる仕組みづくりといえる。京橋川河岸には、ビルをくぐって車道に通り抜けられるフットパスも登場した。パート3では、水辺をめぐる動きを追う。
官民協力で改装実現 ―京橋川右岸
JR広島駅にほど近い広島市中区の京橋川右岸。市民グループが「京橋川ばた通り」と名付けた川辺に、車道から通り抜けられる歩道(フットパス)が出来上がり、三月中旬から市民に開放された。建物を貫くしゃれた通路は、民と官の思いが重なって実現した。
くつろぎ空間
フットパスは、RCC文化センター(三宅恭次社長)が老朽化に伴う改装で取り入れた。七階建ての一階オフィスの間口七・三メートルをくりぬき、ウッドデッキを敷き詰めた。誰もが行き来できる。カウンターで飲み物を買い、水辺のいすでくつろぐこともできる。小さな舞台や放送ブースもある。
駐車場や貸会議室のある今のビルは、一九七二年に建った。車社会を見越した、当時としては画期的なスタイル。時を経て周囲にマンションが立ち並ぶと、旗色が悪くなる。人けがなくなる夜は暗く不用心。河岸でカップルがいちゃつき、「のぞき」も出没した。ご近所から「迷惑施設」呼ばわりされる始末だった。
昨春社長に就いた三宅さん(59)は、「裏」になっていた川を生かしたいと考えた。「風景がとてもいいし、日の光や風が心地いい。イメージアップやビジネスに使わない手はないでしょう」
治水重視の壁
相談を受けたのは、同じ京橋川沿いに建築事務所を構える宮森洋一郎さん(53)である。「絶対無理だと思った。土手では散々辛酸なめたから」と苦笑いしながら話す。
ビル一階は、川土手から一・五メートル低い。車道から川辺への通り抜けを実現するには、広島県が管理する堤防を削るしか手はない。
宮森さんはかつて、出入り口から土手にブリッジをかけようとして、役所に断られた経験がある。理由は治水を重視した河川法。だが、堤防の強度に影響があるかどうかの検討もなかった。「だから、つつかしてくれるなんて思いもよらなかった」
前例ない事業
しかし風向きは変わっていた。市が昨年策定した「水の都ひろしま」構想に、フットパスが挙がっていたのである。「水辺に行きやすく、歩きやすい」仕組みの例だった。市の後押しで、県も堤防の一部を削っての一体的利用を許可した。「事業者、地域、河川行政がうまくかみ合い、前例のない事業ができた」。県河川管理室も喜ぶ。
宮森さんは、「人と川を隔てるびょうぶに風穴が開いた」と語る。「境界をなくせば、みんな得する。これこそが公共空間でしょう」
2004.3.18
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