川沿い住民の接点 期待
京橋川から道一本隔てた広島市中区橋本町に、約千二百平方メートルの小さな公園がある。昨春から色とりどりの季節の花が絶えない。毎日世話をするのは井上光世さん(68)たち。この町で生まれるか、半世紀近く住んでいる人ばかりだ。
いつのころからか、公園から子どもが消えた。吸い殻とピンクビラが散乱した。トイレを使うタクシー運転手と、少年たちが深夜にたむろする以外、人が寄り付かなくなっていた。
マナーも向上
公園の美化は、都心の活性化に取り組む市民グループ「セトラひろしま」の提案だった。花が植わると、井上さんたちの足は自然と公園に向くようになった。「みんな子どもは外へ出て、夫婦か一人の暮らし。街のど真ん中で、自分の庭もないからうれしゅうてね」
それから不思議と、ポイ捨てや少年のたむろが消え、トイレの使い方もきれいになった。河岸に「宿借り」するホームレスの男性も、毎日水辺を掃除するようになった。
公園の花が地域に潤いを取り戻した。だが、井上さんたちには気がかりなことがある。一軒家に住む井上さんたちと、周囲のマンション住民とが、接点が持てないでいるのだ。管理組合のあるマンションの多くが、町内会に入っていない。
京橋川沿いには、十階前後のマンションが連なる。中でも中区上幟町、橋本町の世帯数は、二〇〇〇年までの五年間でそれぞれ30・8%、25・4%も増えた。
利便性に満足
二十歳代と五十歳代が多いのも特徴だ。人口流出や高齢化に悩む都心では珍しい。地区の住民の意識調査を手がけた中国地方総合研究センター企画部長の宮本茂さん(45)は「環境や利便性から、住む人の満足度はとても高い」とみる。
中高層のマンションは通常上の階から売れるのに、川沿いの物件だと低い方が人気が高い。三井不動産広島支店で住宅事業を担当する植松亮輔さん(43)は「川の中州に住むような感覚じゃないでしょうか」とみる。
広島市内でこの四年間に二十九棟分譲したうち十棟が川沿いで、「リバーフロントシリーズ」と銘打った。自身は東京・神田の生まれ。「隅田川は臭いし、人から遠い。干満の差が大きく、表情豊かな広島の川が本当にうらやましい」と話す。
橋本町の公園に最近、マンション住民と思われる母子が五組ほどやって来るようになった。「まだ話はせんけど、これが世にいう『公園デビュー』かと思うてうれしかった。セトラさんの協力で、橋本町が元気になってきたようなよ」と井上さんたちは喜ぶ。
居住環境は、見た目(ハード)に、住民が精神(ソフト)を吹き込んでこそ磨かれる。昔風の近所づきあいとは一味違う、都心の水辺ならではのコミュニティーが生まれる予感がする。
2004.3.20
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