■「線引き」へ公開議論を
「鎮魂にかなう空間利用は、柔軟に運用する」「委員会の審議のもと、平和目的で市民の理解が得られるイベントを開く」…。広島市が内外の有識者に実施した平和記念公園(中区)活用策への意見の一部である。
昨秋、原爆ドームの保存法、原爆資料館の在り方などとともに意見を募った。目的は、「被爆六十周年を控え、平和記念施設を次世代に引き継ぎ、被爆者の思いを未来永劫(えいごう)伝えるため」だ。
「平和公園で何ができて、何ができないか。市民と積極的に議論してこなかった。タブーというわけじゃないが…」と平和推進を担当する市市民局の増田学局長(56)。今、起こりつつある議論のきっかけの一つに、昨年十一月に広島青年会議所が開いた公園活用シンポジウムを挙げる。
シンポを企画した野村慶太郎副理事長(36)が振り返る。「チェロのヨーヨー・マらが『素晴らしいホールは世界にあるけど、ここはここしかない』と演奏を望んでも実現しない。市民は知るすべもない。いったい誰が反対しているのか探ってみようと」
「解放」へ熱意
会員が被爆者団体を回った。一般の興行は反対でも、演奏そのものへの異論はゼロだった。開催にこぎ着けたシンポでは、日本被団協代表委員の坪井直さん(79)が「公園の『解放』のため、熱意を持とう」と発言。厳しい規制は被爆者の要望だと決め込んでいた行政や議会、経済界で話題になった。
「祈りの場所であっても不可侵じゃいけない」と野村さんは思う。原爆資料館から出たらお茶を飲みながら感想を語り合いたい。地元の人間が何度も行きたくなる場にしたい。街にたむろする少年少女でもちょっと襟を正すような雰囲気がつくれないか…。
「従来の平和運動を否定するのではない。表現が多様な方が、多くの人を巻き込める。誤解を恐れずに言えば、平和公園は世界に二つとない平和のテーマパークでしょう」
生かせぬ空間
市民局長の増田さんも「あれだけの空間を生かしきれていない。もっと動かしたい」と話す。課題は「やっていいことと悪いことの線引き」という。「行政としては現状の『全部ダメ』が一番楽」と正直に説明する。
どうやって線を引くか。官と民の意見は期せずして一致する。「市単体では無理。市民も一緒に公開で議論して」と増田さん。「市のせいにせず、『公園はわしらのもんだ』と議論する」と野村さん。「線」は試行錯誤しながら微調整すればいいし、「社会実験」という手法もある。
市は本年度中にドームや公園などの在り方を検討する有識者組織をつくり、来年度には方針を定める。被爆体験を語れる人がいなくなっても変わらないメッセージを伝え続けるため、もうそろそろ道筋を見つけたい。
2004.5.11
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