タイトル「ひろしま 都心のあした」
  パート 6  千客万来

    ■ おとなを狙え ■
      若者上回る消費力

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「ヨン様」目当てのおとなの女性で連日にぎわうシネツイン(広島市中区)

■「ヨン様」に行列 行動力も

 九割以上が女性、それも落ち着いた年代の人たちである。広島市中区の本通り商店街から一本北の筋にある映画館「シネツイン」。韓国のドラマ「冬のソナタ」で大ブレイクした「ヨン様」、ペ・ヨンジュンの主演作品目当ての行列である。

 「おとなの女性は好奇心が強いし、口コミネットワークがすごい。それに『行く』と決めたら、雨が降ろうがやりが降ろうが来てくださいます」。経営者の蔵本順子さん(53)は頼もしそうだ。

 系列館も含め客の七割は四十歳以上。「たそがれ清兵衛」のように、制作側がおとな向けを意識し始めたのも影響しているという。

高齢化が進む

 街のにぎわいについて考えるとき、若者を重視する傾向が根強い。しかし実際にお金を使っているのは中高年である。

 総務省の家計調査では、使えるお金のうち消費に回す割合が高いのは四十、五十歳代。四百万円クラスの高級車や大型液晶テレビを買っているのは「おやじ」だし、客を中高年に絞った旅行社も東京にできた。

 日本政策投資銀行地域企画部参事役の藻谷浩介さん(39)は「広島でも若い女性目当ての商売は行き詰まる」と言い切る。団塊と団塊ジュニアで成長した広島都市圏は、人口がこのまま推移すると二〇二〇年には十五〜三十四歳が29%減。逆に七十歳以上は81%増える計算になる。「シニアを家に引きこもらせてはいけない」というのだ。

商店街も意識

 都心の商店街も気づき始めた。本通商店街振興組合理事の高田諭さん(40)によると、通りを歩く人のうち、二十歳代は十人に二人しか買い物しないが、五十歳代は八人が買ってくれて、使う金額も多い。

 中高年はマイカーが珍しい時代に育ち、きちんと着替えて「街へ出る」流儀を知っている。「実際に支えてくれているシニアにこそ、頭を下げなければならない」と高田さん。組合は本年度の方針に「おとな計画」を掲げ、おとなのお得意さんを増やす具体策を練る。

 蔵本さんは、夜の街に近い中区新天地の閉館した劇場の再生を引き受けた。広島地区もマイカー客主体の郊外型シネマコンプレックスが主流だ。一九九七年以降、二カ所、十八スクリーンができた一方で、都心の旧来型の劇場は三館が閉じた。

心配する周囲

 「映画のついでにウインドーショッピングしたり、おいしい物を食べたりできる環境を守りたい。街は計算ずくじゃないから面白い。ごく一部が支持する店があってもいいじゃないですか」。採算を危ぶむ周囲を、情熱と信念で押し切った。

2004.6.3