■味とサービス 納得が鍵
広島市中区のお好み共和国・ひろしま村にある「えんじゃ」に昨夏、三十代後半の北海道の夫婦がやってきた。さぬきうどんの食べ歩きに四国に来たついでに足を延ばしたという。
サイトで検索
店に来たのは二度目。前年夏の広島旅行の折、おいしいお好み焼きが食べたいと、地元の飲食店を星の数で格付けしたサイトで検索して選んだ。「前にすごく気に入ったので、どうせ高松まで行くんならまた食べなきゃ」と、電車と新幹線を乗り継いで来た。翌日、飛行機でたつ前にも再訪し、食べて帰った。
官民ジレンマ
観光、ビジネスなどの来訪者だけでなく、住民や日々そこで働く人たちにとっても食は大きな楽しみである。グルメ本、タウン誌、フリーペーパー、インターネットと情報は山のようにある。しかし本当に求められる情報が果たして届いているのだろうか。
昨年暮れ、都心部のお好み焼き店九十七店を網羅した無料マップができた。住所、電話番号、営業時間がずらりと並ぶ。
「初の試みで、行政マンとしては満足」と作製にかかわった市観光コンベンション推進部課長補佐の田村直也さん(49)。ただ、と言葉を継ぐ。「個人的に欲しいのは味やサービスの情報。行政が先頭に立って店を差別化できない。ジレンマです」。客観データだけでは選びようがない。
中国五県の官民でつくる中国地域観光推進協議会(会長・仁田一也広島県観光連盟会長)のワーキンググループでも、穴場情報の発信方法が議論となった。行政には限界がある。一方、民間だと広告絡みか、そうでなくても色眼鏡で見られる。では主観の入った情報発信の担い手は誰が適任か―。
今、ある地図作りが進んでいる。広島市内のホテル宿泊者の大半を占める三十〜五十歳代のビジネス客を狙い、飲食店と街歩きの情報を載せる。都心のまちづくり活動に携わる特定非営利活動法人(NPO法人)「セトラひろしま」が取り組む。
担当の石丸良道さん(53)が意図を説明する。「情報発信は、街に人を呼ぶための基本。NPOなら、自信と愛着を持った地元ならではの情報を発信できる」
1600店以上掲載
北海道の夫婦がたどり着いたサイト「快食com」を運営するシャオヘイさん(34)も地図作りに加わる。一九九八年に始めたサイトは、勤めの傍ら、自腹で食べ歩いた千六百店以上を掲載。アクセス数は百八十八万件を超える。
「広島にもいい店がいっぱいあるぞと言いたかった。軌道に乗ると、店も客も成長していく。住んでいる人間が楽しむ様子を見れば、来訪者も増えるんじゃないか」とシャオヘイさんは言う。
人の胃袋をつかむと強い。繰り返し訪れ、滞在時間も増える。知る人ぞ知る情報をいかにおすそ分けするか。もちろん、「うのみは禁物」など受け手の成熟度も問われる。
2004.6.4
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