タイトル「ひろしま 都心のあした」
  パート 6  千客万来

    ■ まちなか居住 ■
      価格お手ごろ 人戻る

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「紙屋町徒歩圏内」をうたい文句に、建設が進む100平方メートルマンション(広島市中区猫屋町)

■刺激・利便性 魅力多く

 六十三歳の大野泰則さんは昨秋、広島湾を望む広島市南区の洋光台団地の一戸建てから中区舟入の賃貸マンションに一家四人で移った。もう一旗揚げようと家を売って、弁当店開業の資金の足しにした。

生活様変わり

 家は「子どもらに古里をつくろう」と十五年前に建てた。JR広島駅までバスで十五分。さほど不便は感じていなかったが、まちなかに転居して家族の生活は様変わりした。二十代前半の娘も息子もよく街へ出るようになった。「若い者は特に、いろんな変化に触れて刺激を受けるんが大事なことじゃ思うんよ」。じきに夫婦二人になったら、都心に手ごろなマンションを買うつもりという。

 一九九〇年代後半から東京で始まった「都心回帰」は、広島市でも見られる。

 政令市に移行した八〇年に住民基本台帳ベースで約十三万二千五百人だった中区の人口は、二〇〇一年には約十一万八千百人まで減った。ところが〇二、〇三年とわずかに増え、ことし四月末には五年ぶりに十一万九千人台に回復した。

 まちなかに人が戻ってきたのは、マンションが増えたため。住宅情報広島版編集長の時崎稔さん(38)によると、地価の下落と、企業の資産処分が進みまとまった土地が出たため、中区のマンションの坪(三・三平方メートル)単価は現在平均百二十四万六千円。三年前の南区と同水準で、八十平方メートル強の部屋が三千百万円台にまで下がった。

間取りも広く

 「バブル期に住宅ローンなどの借金をせずに済んだ六十代以上と三十代が買っている。以前は都心の利便性とマイカーをてんびんにかけていたのが、車を手放さなくてもいい価格まで下がった」と解説する。五月から三カ月間に広島都市圏で販売予定のマンション三十五棟のうち、十一棟が中区という。

 全国で広島が草分けという、広さが売りの「百平方メートルマンション」も都心に登場する。章栄不動産(安佐南区)が中区猫屋町に建設中の十五階建ては一戸九十―百八平方メートル。購入者の年齢は幅広く、持ち家や分譲マンション住まいの人もいる。

 マンション事業部の高橋康展さん(28)は「八割が同じ中区から。既に都心の暮らしを満喫している人の心を動かすことができたのではないか」と分析している。

 都心の良さは、職住近接、買い物の利便性、多様な娯楽…。都市計画が専門の広島県立広島女子大教授、間野博さん(56)は、より快適に住まうためにはコミュニティー形成が欠かせないという。

 「防犯や教育、高齢者問題のための必要最小限のコミュニティーの中から、面白いことを見つけてまちにかかわっていく。お祭りはやる方も見る方も楽しいでしょう。住民が心地良い場所には、人もやってくる」との指摘である。

2004.6.5