■文化やスポーツが凝縮
広島市中区のオフィス街のビルにある島根県広島事務所。赴任して三年の所長、鳥屋尾暁(とやお・さとる)さん(51)のアフターファイブは忙しい。
仕事絡みの会合を縫うように、週に一度は映画館へ。割引デーはフルに活用する。コンサートも行くし、市民球場で野球も見る。島根県庁から約四十キロの自宅へマイカーで一直線だった赴任前と、生活は一変した。
市外から集う
「島根のもんにとって広島は都会。テレビで見て何となく巨人を応援していた前と違ってカープファンになったし、美術館巡りも始めた。いろんなもんに触れて、趣味の世界が広がった」
街ならではの魅力に、音楽や芝居などのエンターテインメントがある。加えて広島はスポーツ観戦を楽しむ機会も多い。広島商工会議所の都心活性化推進プロジェクトが昨年実施した調査では、市外から訪れた人の二割近くが「映画・コンサート」「スポーツ観戦」を目的にしていた。
昨年八月から四カ月間、中区で催した劇団四季のミュージカル「キャッツ」には十五万八千人が訪れた。半数近い47%は市外からだった。
広島市内では音楽や演劇の公演は年間五百〜六百本ある。大物だと中四国で唯一の開催地になることも多い。広島―松山を高速艇とフェリーで結ぶ瀬戸内海汽船(南区)は、コンサートに合わせて臨時便も出す。
七月に広島グリーンアリーナ(中区)である米国のバンド、エアロスミスの公演は大阪以西では唯一の開催で、東京など他の四会場はすべてドーム。「ドームはミュージシャンから遠くて、音も悪いから、東京から広島へ来るファンもいます」。チケットを扱う夢番地広島オフィスの高波秀法さん(35)が広島の強みを説明する。
「密着度薄い」
ただ、それなりに恵まれた環境を地元が分かっているかは心もとない。
チケット案内など都会の情報誌の草分けである「ぴあ」の広島版「HIroshimaぴあ」は、今春号を区切りに休止する。見合う情報もマーケットもあるとふんで二〇〇二年夏から年四回発行したが、低迷した。東京の本社広報部は「思ったほど情報が求められていなかった」という。
広島東洋カープの主催試合の観客は昨年、十三年ぶりに百万人を割り込んだ。市民球場だけでは一試合平均一万三千人余り。福山市で生まれ育ったカープファンで、「広島は市民球場下町」という茨城県つくば市の大学院生前田伸夫さん(41)は「地域密着度が薄くなってきた。地元がもっとちゃんと応援してほしい」。離れている分、歯がゆさが募る。
転勤で札幌や東京でも生活した中国博報堂マーケティング部長の北野尚人さん(47)は「広島の人は街遊びが下手」と指摘する。「ショッピングやスポーツなど街の魅力が、歩ける範囲にコンパクトに詰まっている。そんな他都市にない特性を、持て余したり、過小評価しているのではないか。何が素晴らしく、何がいま一つか精査したら、気づかなかった魅力が見えてくる」というのだ。
2004.6.8
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