タイトル「ひろしま 都心のあした」
  パート 6  千客万来

    ■ 公共交通 ■
      脱マイカーへ充実図れ

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カーブして都心に乗り入れる路面電車(右)。スピードアップや他の交通機関との連結が課題だ(広島市中区の土橋電停南側)

■時間短縮やサービス鍵

 駐車場の新設を抑え、今以上に車が入らない方がよい―。広島市の都心で、回遊性を高め、歩きやすさを求める声の高まりを、これまでのシリーズで紹介してきた。「千客万来」をかなえるためには、公共交通の充実は欠かせない。

 市によると、バスや路面電車、JR、アストラムライン四種類の公共交通機関の一日当たりの利用者は約九十一万六千人。一九九九年度から一割余り減っている。一方、マイカー所有台数は四年前に六十万台を突破。以降も毎年五千台以上増え続けている。

 しかし、都市交通を専門とする広島大大学院助教授の奥村誠さん(42)はクルマ依存は必ず壁にぶつかるとみる。「車があることを前提にできた郊外の団地で、高齢で運転できなくなった人が出始めた」と指摘する。

構想ストップ

 市は五月にまとめた「新たな交通ビジョン」の案で、交通体系の軸足を自動車寄りから公共交通へシフトすると掲げた。従来も公共交通の重要性に触れてきたが、第三セクターのアストラムライン以外の事業者は民間。結果的には人任せで、増え続ける車をさばくための後追い策しか施してこなかった。

 例えば、市も加わる中国運輸局長の諮問機関「中国地方交通審議会」は二〇〇二年、路面電車を西広島駅(西区)から緑大橋を渡って平和大通りを直進し、江波線につなぐ改善策を打ち出した。三つのカーブがなくなることで、少なくとも五分、ラッシュ時なら十分短縮できるという。

 しかし緑大橋架け替えの事業費がネックとなり、構想はたなざらしのままだ。広島電鉄社長の大田哲哉さん(63)は「都市交通は市民のためにあるという意識が足りないようで寂しい」と嘆く。

 市がビジョン策定に向けて市民から自由意見を募ったところ、53%が公共交通の充実を求めた。路面電車の高速化や、郊外と連結する西広島駅と横川駅(西区)から都心までのアクセス向上などが挙がった。

ソフト策提案

 市は本年度中に市内の交通事業者すべてを交えた懇談会を発足させ、プランを具体化する。市交通対策課の向井隆一課長は「ひざを突き合わせて本気で話し、何か形を生み出したい」と語る。

 巨額の投資が要らないソフト策をまず実施すべきだ、と提案する専門家もいる。交通計画に詳しい西区のコンサルタント会社勤務の加藤文教さん(52)。異なる事業者間の乗り継ぎ割引や、駐車場割引と同様に公共交通機関で来た人へのサービスなどを挙げる。

 下関市では昨年七月から百貨店の買い物額に応じてバスカードを発行する社会実験をスタート。百貨店があるJR下関駅前の一日当たりの乗降者数が七百人増えている。

 「車はドア・ツー・ドアで余分な出費をしにくい。公共交通の利用者は、待ち時間に買い物したり、お茶を飲んだり。優待しても、地元全体を見れば決して損はないのではないか」と加藤さんは説く。

パート6は今回で終わります。増田泉子、門脇正樹が担当しました。

2004.6.9