広島市南区のJR広島駅南口の駅前広場で、屋根を架ける工事が進む。駅舎と路面電車、バスの乗り場までのすき間三十メートル余りを結ぶ。
駅前広場が整備されたのは一九八九年。広島電鉄と広島県バス協会は市の補助を受け、それぞれの乗り場の上にだけ屋根を付けた。「つなぎ目は誰が負担するか」。市と両者の押し付け合いが続いた十五年間、利用者は雨にぬれながら走らされた。今回、市は「バリアフリー」を口実に重い腰を上げた。
連載を通じて、「歩きやすい都心づくり」を望む市民の声は想像以上に大きかった。環境面はもちろん、高齢化を背景にした安全性や快適さ、にぎわいのためにもと経済団体や行政も口をそろえた。そのためにはクルマから公共交通への切り替えが欠かせない。
車依存が進む
しかしクルマ依存は進む一方だ。市内のマイカー所有台数が年五千台のペースで増えているのに対し、バス利用者はこの二十年で一日あたり十二万人減った。
実際、公共交通は使いにくい。乗り継ぎ、乗り換えは、停留所、料金制度とも各社ばらばら。「八丁堀」のバス停は十三カ所もある。発着点が広島駅と広島バスセンターに集中し、紙屋町(中区)を通過するバスは一日に二千台を上回る。時間帯によっては空気を運び、渋滞に拍車をかける。
いきおい、デパートや商店街のサービスもマイカー利用者に偏る。郊外の家族連れならマイカーの方が割安だ。「車利用を控えよう」といくら叫んでも、楽で安い方に流れがちだ。
アストラムラインを運行する広島高速交通社長の中村良三さん(62)は西武鉄道出身。複数の私鉄が絡み合う首都圏から来ると、広島の連携のなさが不思議でたまらない。「公共交通はインターネットと同じで、つなげばつなぐほど需要も魅力も増す」。JRとの接続にも意欲を示す。
国も支援拡充
この春には紙屋町地下街シャレオの運営会社社長にも就いた。アストラムとの割引サービスも検討中だ。消費者に街歩きをしてもらいたい本通り商店街もようやく、公共交通とのタイアップの研究を始めた。
道路一辺倒だった国土交通省にも変化の兆しがある。静かで乗り心地のいい次世代路面電車(LRT)導入の支援策を大幅に拡充する。「国がやってくれるなら」と市も検討を始めた。広島にとっては追い風である。
市は六月にまとめた「新たな交通ビジョン」で「歩きやすい都心」をうたいながら、クルマを集める駐車場政策の見直しには触れていない。都心でも設置を促してきただけに、そう簡単にはいかないという。多少の批判は覚悟で、政策転換を宣言してほしい。
公共交通は利用者が減ると衰退する。役所や事業者の縦割りやメンツ争いにはノーを突きつけ、乗りやすくなるよう注文を付けよう。そして都心へマイカーで来るのは最小限にして、限られた駐車場を体の弱い人や遠くから来てくれる人に譲ろう。
2004.7.17
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