瀬戸内海国立公園指定70周年
「ふるさとの海」  27.生命の大草原
香川県土庄町・豊島

     産廃の浜から
       再生示すアマモ
         本格回復へ期待担う
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Photo
干潮時、産廃投棄現場(右上)の北側に現れるアマモの群生。遮水壁が整備され、産廃はシートで覆われているが、時折、特有の悪臭が漂う
地図「豊島」

 雨上がりの草原を思わせるアマモの大群生。潮が引くのを待ち、遠浅の一帯を歩き回った。ふわふわした感触が心地良い。が、風向きが変わり、産業廃棄物の不法投棄現場から悪臭が漂い始めると一気に興ざめした。

 豊島(てしま)。おびただしい量の産廃が島外から持ち込まれた。藻場は投棄現場のすぐ北側。幅約一キロ、沖合百メートル以上まで続く。

  歩調合わせて

 かつてはヘドロの海だった。投棄現場から一日百二十トンもの汚染水が流出していた。豊島の住民が産廃の撤去を求め、公害調停が成立して四年余り。環境保全事業も進む。海岸沿いに長さ二・五〜十八メートルの鋼矢板を打ち込んだ遮水壁(総延長三百六十メートル)が二〇〇一年十月に完成。工事と歩調を合わせるかのようにアマモが戻ってきた。

 「天国で雲の上を散歩しているような気分でしょ」。藻場を案内してくれた市村康さん(47)=高松市=の声が弾む。アマモは豊島再生のシンボルでもある。

 豊島の住民運動を支援する「豊島は私たちの問題ネットワーク事務局」のメンバー。広島大出身で、学生時代から中国山地や島しょ部の自然観察を続けてきた。休日はたいてい島に渡り、空き家を借りて活動の拠点にしている。

 市村さんによると、オサガニやイボニシなども確認され、生物の種類、個体数とも増加。アマモの再生も順調に進む。今年は特に繁茂に勢いがある。「海の回復力はすごい」と実感するが、アサリなど二枚貝はまだ少ない。「破壊の傷は深い。今後の推移をじっくり観察する必要がある」と訴える。

  「負の遺産」に

 家浦港の近くにある廃棄物対策豊島住民会議の事務局。同会議代表の一人である安岐正三さん(53)が仕事帰りに立ち寄った。アマモの再生を喜びながらも、「遮水壁で島と海を切ってしまった。正常な姿ではない」。複雑な心境を打ち明けた。

 住民会議は全国から訪れる見学者を受け入れ、安岐さんも案内役を務める。「第二、第三の豊島をつくってはならない」との思いからだが、その後も全国で産廃の不法投棄事件などが続発。大量消費のつけが過疎地域などに回される構造も変わらない。「豊島の教訓が生かされない」。もどかしさが募る。

 業者の事務所跡を資料館にし、投棄現場から切り取った産廃(高さ約四メートル、幅約二メートル)を展示した。「広島の原爆ドームと役割は同じ。豊島を風化させてはならない」。負の遺産を「学びの場」にする試みが続く。アマモはその応援団かもしれない。

2004.7.11

写真・荒木肇、文・三藤和之


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