瀬戸内海にも竜宮城があった。主役はサンゴ。水中で真夏の日差しを受け、オレンジがひときわ鮮やかに浮かび上がる。
「オノミチキサンゴ」。枝分かれする樹状サンゴだ。竹原市忠海の沿岸部で久々に生息が確認されたと聞き、現地へ出向いた。
昨春から調査
「この下ですよ」。忠海高三年岡田和樹君(17)=三原市幸崎町=の声が弾む。続いて潜ると、サンゴは水深二、三メートルの岩礁にあった。小指ほどの枝が十本近く伸び、地味な岩場で異彩を放つ。オノミチキサンゴは和名。尾道市周辺でもかつて生息が確認され、その地名が冠されたとされる。
岡田君は同校科学研究部員。「昔はごろごろおったのに、めっきり減った」と漁業者から聞き、「この目で確かめたい」と昨年春から潜水調査を始めた。これまでに島しょ部で二個体を確認。さらに沿岸部で大小十四個体を見付けた。
壊滅状態ではなくて安心した半面、「生息場所、個体数とも限られ、やはり海は傷ついている」。厳しい現実と向き合う日々でもあり、手放しでは喜べない。
オノミチキサンゴは瀬戸内海のほか東京湾や相模湾などでも生息が確認されているが、詳しいデータはない。広島大大学院の鳥越兼治教授(55)=生物教育学=は、一九七〇年代から八〇年代にかけての開発や工業化、生活排水、赤潮などの影響で減少したとみる。
特に、竹原市沖では九七年まで海砂採取が続けられ、許可量を上回る違法操業も発覚した。採取に伴う水深拡大、潮流の変化に加え、採取時は海が濁り、微粒子が拡散。海洋環境は一変した。
「海砂採取で岩場にも微粒子が堆積(たいせき)し、サンゴを見たという話も聞かなくなった」。自然公園指導員を務める地元の会社員山根積さん(43)は振り返る。採取全面禁止後、周辺ではアマモが復活しつつあり「サンゴも海がよみがえりつつある証し」と受け止める。
埋め立て脅威
竹原沖に限らず瀬戸内海の水質は全体的に改善傾向とされる。が、「脅威はまだ、たくさんあるんです」と岡田君。現在も続く沿岸部の埋め立てや護岸整備に気をもむ。
忠海地区では、国のレッドデータブックで準絶滅危ぐ種になっているハクセンシオマネキが生息する干潟の埋め立て計画が進む。住民や研究者に協力を呼び掛けて今年六月、約六百匹を近くの干潟に移した。
「海辺に住んでいても、海の生物や汚れに関心を示さない人が多い。だから、皆に訴え、参加してもらいました。これ以上、海や生き物を痛めつけないでほしい」。オノミチキサンゴは、体を張って海を守る岡田君へのご褒美に思えた。
2004.8.8
写真・荒木肇、文・三藤和之