瀬戸内海国立公園指定70周年
「ふるさとの海」  33.子だくさん元気島
兵庫県家島町坊勢島

     豊かな漁場の恵み
       暮らしも人情も潤い
         若者の希望脈々と
□
Photo
大漁旗がたなびくペーロンフェスタの会場。背後地の立派な建物は、離島にありがちな入浴、保養施設かと思っていたらスポーツセンターだった
地図「坊勢島」

 出生率一・二九ショックとは無縁の離島がある。子だくさんの家庭が多く、基幹産業である漁業の後継者にもこと欠かない。

 兵庫県姫路市から南西約二十キロの坊勢(ぼうぜ)島。約四十の島からなる家島町のほぼ中心に位置する。人口は三千百四十七人(今年四月一日現在)。ここ二十年間で町全体では13・5%(千二百九十三人)も減ったが、坊勢は5・1%(百五十四人)増えた。瀬戸内海全体を見回しても、これほど伸びた島はほかにない。

  3人当たり前

 坊勢を訪ねたのは、島の一大イベント「ぼうぜペーロンフェスタ」があった今月七日。「子ども三人は当たり前かな。以前ほどではないにしても四人、五人と頑張る夫婦もけっこういるよ」。小学生の部に出場した地元のえびす子ども会会長上谷寿恵子さん(45)が、保護者たちを見回しながら教えてくれた。本人も十一〜五歳の三児の母だ。

 「他の島と違い、出生数がずっと死亡を上回っている。つまり子だくさんが人口増の主な要因なんです」と、家島町坊勢支所長の松本敏和さん(54)。昨年は出生三十三人に対し、死亡は半数以下の十五人だった。かつて日本の人口が増えていた時期の図式がそのまま残る。

 「ここは播磨灘はもちろん、瀬戸内海でも一番元気な島。漁業でそこそこ潤い、人情もいいから今日でも安心して産み、育てられる環境にある」。来賓席で観戦していた坊勢漁協組合長の上村広一さん(61)が子だくさんの背景を説明してくれた。

  新築の家贈る

 上村さんによると、組合員約五百八十人の平均年齢は四十六歳。漁場が広く、魚種も豊富で、底引き網やイワシ網漁、ノリ養殖などによる漁獲高は年間五十五〜六十億円。「日本一若く、一人当たりの水揚げも県内でトップクラス」という。結婚するわが子に新築の家を贈る「新宅分け」の風習も一部残る。

 ペーロンフェスタを仕切るのは、島の若者らでつくる競漕(きょうそう)チーム「坊勢酔龍会」。メンバーの荒木雄太さん(21)は高校卒業後、漁師になって三年になる。動機を尋ねると、「高校時代、おとんに無理矢理手伝いをさせられたのがきっかけ」とそっけない。

 見習い中のため家からもらうのは月三万円。不満そうだが、中学で同級の男性三十七人のうち十三人が漁師になった。海に出ればライバルだ。「早く一本立ちできるようになって一千万円プレーヤーを目指したい」と目を輝かせた。

 豊かな海が若者をひきつけ、次世代への橋渡しをする。

2004.8.22

写真・荒木肇、文・三藤和之


TOPNEXTBACK