瀬戸内海国立公園指定70周年
「ふるさとの海」  34.ウミホタルの島  笠岡市真鍋島

     青白く鮮明な光
       心にも灯をともす
         幻想的なショー
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Photo
採集したウミホタルを海に放つと、青白い光の帯が海面に広がった。左奥の島影は佐柳島
地図「真鍋島」

 台風15号が日本海を駆け抜けた今月十九日、笠岡港から渡船に乗った。「海が光る」という笠岡市真鍋島の砂浜を見に行くためだ。瀬戸内海では珍しいしけの中、白石島から北木島へと笠岡諸島を巡り、一時間余りで真鍋港に着いた。

 港近くは、映画「瀬戸内少年野球団」のロケ地にもなった。その古い家並みを背に急坂を上った後、港の反対側の砂浜まで下った。海に面した、ユースホステルと旅館を兼ねる「三虎(さんとら)」を訪ねた。

 台風のせいか、波が高く、水も濁っていた。少し不安になっていると、経営者の久一(ひさいち)博信さん(42)は「この程度の波なら大丈夫。必ず見られますよ」と、太鼓判を押してくれた。

 午後八時半、宿舎前に設けられた桟橋に立った。チカッ、チカッと波頭がきらめく。「それは夜光虫」と久一さん。続けて水深二メートルほどの海底に目を凝らしていると、ポーッと青白い光がともった。目当てだったウミホタルの光だ。思ったよりも、はるかに鮮明な光だった。

  夏場が見ごろ

 ウミホタルは、カニやエビに近い甲殻類で、体長は三―四ミリほど。卵形をした二枚の殻で包まれ、主に魚など生物の死骸(しがい)を食べている。外部から何らかの刺激を受けると、発光物質を体外に吐き出す。この物質が海水中の酸素と反応し、青い光を放つ。よく光るのは六―九月。雄が雌を誘うための発光という説もあるが、何のために光るのかは、よく分かっていない。

 一九九八年の夏、岡山市内の高校からやってきた生物クラブの生徒が熱心に観察していたのをきっかけに、久一さんは、ウミホタルの生態に興味を持った。書籍や資料を集めて調べ、専門家から話を聞いた。

 日本沿岸のどこにでも生息していることが分かった。しかし、淡い光をとらえるには、きれいな水質や周囲に光源の少ない立地条件が必要だった。「何もない離島だからこそ、神秘的な光を満喫できるはず」。自ら手掛けるインターネットのホームページ「三虎便り」にコーナーを設け、ウミホタルの島をPRした。

  目当ての客も

 臨海学校で訪れる小学生をはじめ、宿泊客を対象に観察会を開いた。希望すれば、目の前の海で採集したウミホタルを見せる「光のショー」も演出する。ウミホタルを目当てに訪れる客も増えた。

 今年六月、テレビドラマの撮影が真鍋島であった。ロケ場所になった「三虎」を訪れたスタッフが、久一さんからウミホタルの話を聞き付けた。「海ほたるの島で」というタイトルで、秋に全国放映される予定だ。瀬戸内海のほぼ中央にある島に、小さな光がともりそうだ。

2004.8.29

写真・荒木肇、文・古川竜彦


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