瀬戸内海国立公園指定70周年
「ふるさとの海」  44.百万都市の原生林
広島市南区元宇品

     瀬戸内のたたずまい
       今もとどめる高木群
         市民の生きた教材に
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Photo
広島湾奥部に位置する元宇品(宇品島)。背後には百万都市を象徴するビル群が広がる
地図「元宇品」

 百万都市の中心部から目と鼻の先に、瀬戸内の原風景をとどめる森が横たわる。かつては離島だった元宇品(広島市南区、宇品島)の緑はひときわ濃く、ほのかな紅葉が彩りを添えていた。

 クスノキ、ツブラジイ、タブノキ…。常緑広葉樹が茂り、二十メートルを超える多くの高木も威風堂々とたたずむ。海岸近くの斜面でツワブキが黄の花をつける。「瀬戸内海沿岸では数少ない原生林。よく残ったものだ」。観察を続ける元中学校教諭の湯出原元さん(79)=南区翠=がいつくしむ。

 宇品島は周囲約三キロ。千田貞暁・広島県令(知事)が計画した明治期の干拓・埋め立て事業で陸続きになり、近くに宇品港も整備された。♪空も港も夜は晴れて…。唱歌「港」の舞台とされる。軍都広島の重要拠点でもあり、日清、日露戦争などでは将兵を送り出した。

 郷土史や植物を調べている元郵便局長の脇勲さん(76)=南区宇品御幸=と一帯を散策した。「あった」。黒紫に熟したムクノキの実を目ざとく見つけ、口にした。幼いころからの遊び場で、木の実などおやつを調達する場でもあった。

  3冊の案内本

 瀬戸内海沿岸部に広がっていた原生林は開発などで大半が姿を消した。市中心部から五キロほどしか離れていない原生林がなぜ生き残れたのか―。

 脇さんは、もともと離島だったことに加え、(1)浅野藩がかん養林として伐採を禁止(2)軍の拠点地域として保護された(3)瀬戸内海国立公園の特別地域に指定(一九五〇年)され、開発が制限された―などの条件が重なったためとみる。

 「貴重な財産を守り、多くの人に親しんでほしい」。公民館の講座などで出会った住民らが中心になり、これまでに三冊のガイドブックを編集。自然観察に訪れる小学生たちの案内係も引き受ける。なるほど、脇さんの足取りは斜面でも確かだ。

  230種の藻確認

 住宅地だった東側は埋め立てが進み、造船所跡に高層ホテルが進出するなど一変した。が、西側には市内では数少ない自然海岸が残る。

 海藻の研究を半世紀近く続けている元中学校教諭の田中博さん(77)=安佐南区山本=によると、瀬戸内海に分布するとされる約三百種のうち約二百三十種を周辺で確認。「これほど豊富な場所はない」と太鼓判を押す。

 地域に残る自然を教材にしよう―。田中さんは元教員や公民館職員らと今年五月、市民グループ「ひろしま生きた自然博物館」を結成。自然観察の手引となる小中学生向けのワークシートを作成した。修学旅行生の受け入れも計画。共生による保全の道を探る。

2004.11.7

写真・田中慎二、文・三藤和之


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