瀬戸内海国立公園の指定七十周年にちなんだ連載「ふるさとの海」。中国四国地方を中心に、暮らし、海にまつわる歴史、文化、癒やしの景観などをつづった。一年間にわたるフィールドワークの中で、昔と変わらぬ温かい人情にもふれられた。一方、急激な時代のうねりの中で存亡の危機に直面する自然、生業(なりわい)の現場に直面した。総集編として、膨大な取材フィルムからピックアップした六景を紹介するとともに、今後の国立公園像を探る。
■保護区域や対象 明確化を
瀬戸内海が国立公園に指定された一九三四(昭和九)年からの七十年は、日本の激動期に重なる。特に戦後は、保養、癒やしの場として定着した半面、急速な都市化、工業用地としての開発、海洋汚染などで瀬戸内海の表情は一変した。そんな国立公園を今後、どう守り、いかに活用していくのか―。いつまでも世界に誇れる「ふるさとの海」であり続けられるよう英知を結集し、行動したい。
瀬戸内海は、長い時の流れの中で自然、歴史、文化が混然一体となり、趣豊かな景観を織りなす。陸、空、海中から実像に迫る写真家脇山功さん(51)=広島中区=は「自然と上手に共存してきた瀬戸内の風土が崩壊しつつある」と嘆く。
近くて遠い?
高度成長期から今なお続く埋め立て、道路、護岸整備などによる自然海岸の消滅、海浜植物の激減…。目に見える変化だけでなく、「流通や交通機関の発達で、人々の心が海から離れてしまった」と気をもむ。
島しょ部での取材で、「学校にプールができ、海で泳ぐのを怖がる子どもが増えた」と心配するお年寄りがいた。海は近くて遠い存在になっているのだろうか。
国立公園の在り方そのものの見直しを求める声も出始めている。
産業技術総合研究所中国センター(呉市)統括研究員の上嶋英機さん(60)は「従来のような景観主体では、どこが国立公園なのか具体的に分かりにくい。生物の多様性などで区域を決める方法もある」と提唱する。自然環境を新たな物差しにし、生物などを含めて守るべき区域、対象をもっと明確にするという考え方だ。
さらに「瀬戸内海全域を一体的に管理、活用するシステムづくりも欠かせない」と指摘。住民や科学者、行政、企業などによる組織の立ち上げを求める。
「里海」として
環境省の考え方も変わりつつある。山陽四国地区自然保護事務所(岡山市)は瀬戸内海国立公園内にある展望地のリフレッシュ事業を展開。せっかくの眺望を遮る樹木を一部伐採するなど手を加えている。
「景観に感動してもらえなければ、保護、適正な利用にはつながらない」と市原信男所長(51)。環境、景観の保全に取り組む市民団体などと連携した活動も計画しており、「県境を越えたパートナーシップを確立したい」と、点から面への広がりをもくろむ。
国立公園の中でも屈指の人口集積地である瀬戸内海。陸の「里山」のように、自然保護を優先しつつ、漁業や環境浄化などを通じて適切に手を入れながら活用する「里海」ととらえ、再生を進める必要がある。