中国新聞

ホームページ社説天風録地域ニュースカープ情報サンフレ情報スポーツ情報全国・世界のニュース
20021004
臨界の波紋 JCO事故から3年


 |
東海村村長インタビュー
full story
index

民間の目
責任認めぬ行政、疑問
 

独立した規制機関求む


  「これは最近、まとまったばかりです」。東京都中野区の古びたビルの一室。あふれる資料の間を縫って現れたNPO法人「原子力資料情報室」の藤野聡さん(30)は、手にした冊子を長机に広げた。

 「JCO臨界事故 3年後に見えてきたもの」とのタイトルが付けられている。二〇〇一年度から二年間、トヨタ財団(東京)の研究助成金を受け、茨城県東海村の核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所で起きた臨界事故の原因と影響を点検した中間報告である。

 ▽総合評価会議

 「報告書を作成したのは、九九年十二月に立ち上げたJCO臨界事故総合評価会議。私を含めた情報室のスタッフをはじめ、弁護士、大学教授、防災問題専門家ら計十八人で構成されている。文字通り市民サイドから、事故の影響を総合的に評価しようとするものだ」

 A4判、九十八ページの報告書は「JCO刑事裁判でこれまでに判明した事実」「臨界事故に伴う放射能の放出」「東海村住民・那珂町住民の身体的影響・原子力問題への高い関心」など十章からなっている。

 九九年九月の事故直後、原子力安全委員会は事故調査委員会を設置。三カ月後には事故原因などについての最終報告書を公表し、解散した。

 「私たちがその報告書を読んで一番疑問に思ったのは、あたかも事故が定められた手順を逸脱し、違法に作業を行ったJCO特有のもので、原発など他の原子力施設では起こり得ないかのような内容が色濃く出ていたことだった」。藤野さんはこう振り返る。

 ▽「根深い腐敗」

 そこには、認可主体の当時の科学技術庁(現文部科学省)の責任や自らも安全審査に当たった原子力安全委員会、不備な設備を知っていて高濃縮ウラン溶液の製造を発注し続けた動力炉・核燃料開発事業団(現核燃料サイクル開発機構)などの責任は問われていなかった。

 「事故当時、東京電力の幹部らも盛んに『原発は安全』を繰り返し、『安全性を切り詰めて経済性を追求することはあってはならないことだ』と公の場で発言していた。しかし、相次ぐ原発の損傷虚偽報告が示す通り、JCOの事故は一企業の責任だけでなく、原子力産業を取り巻く閉鎖社会の、根深い腐敗から生まれたとみるべきだ」と藤野さん。

 総合評価会議では、強い権限を持つ、独立した原子力規制機関の必要性などを政府に訴え続けている。

 ▽顔が見えない

 東海村の村上達也村長(59)も「原子力関連企業へのきちっとした規制管理体制なしで、われわれ住民の安全は守れない」と、現状に強い不満を示す。

 「JCO事故の時もそうだったが、原発の損傷問題をめぐる今回の一連の事件が起きても、原子力安全委員会は何も言っていない。顔が見えない。こうした状況では、住民への防災対策をいくら講じても、事故防止の強化につながらない」

 村上村長はまた、総合評価会議がJCOから半径二キロ圏内の住民の健康調査や意識調査を二〇〇〇年と今年の二回にわたって実施したことを高く評価する。調査を通じて、ともすれば無視されがちな住民の健康への強い不安などが広く知られるからだ。

 総合評価会議では、来年秋をめどに最終報告書をまとめる計画だ。JCOの事故を風化させず、市民の立場から政府に具体的な提言をし、行政を動かしていけるか。藤野さんらの取り組みに大きな期待がかかる。
picture
JCOの臨界事故で「土地価格が大幅に値下がりした」とされる茨城交通が開発する団地(茨城県東海村)
特集・臨界の波紋JCO事故から3年        index
ホームページ社説天風録地域ニュースカープ情報サンフレ情報スポーツ情報全国・世界のニュース