中国新聞
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2003/12/26


 恐怖の復元 ■■
巨体、悪夢呼び起こす 被爆者震え「帰りたい」


復元されたエノラ・ゲイにおびえ、泣きじゃくる小倉さん(右)

 市街地から車で約四十分。ハイウエーを降りると新館の巨大な円屋根と塔が見える。別名「展示格納庫」。まさしく空港施設のようだ。広島市民球場の約三倍の会場に八十機の飛行機や宇宙船が並ぶ。館内中央にひときわ高い尾翼がそびえる。エノラ・ゲイがあった。

 派遣団の一人で、通訳会社経営の小倉桂子さん(66)=広島市中区=は、巨体の前で震え始めた。「あの銀色が怖いよう、あー帰りたい」

 そばにいた米国人の平和活動家に抱きとめられた。腕の中でしきりに泣きじゃくる。五十八年前の八歳の少女に戻っていた。「みんな(他の被爆者)に見せたくない」とつぶやいた。

 機体の前輪の下で、現地の平和活動家約五十人が、抗議行動を始めた。「ネバー・アゲイン・ヒロシマ」のシュプレヒコールと、行動を阻止する警備員の怒号が交じる。

 その騒ぎの傍ら、県原水禁常任理事の坪井直さん(78)=南区=は、館内のいすに倒れ込んだ。

 「被害の展示がなくては、歴史の真実が見えない」。怒りの拳を全米ネットワークや英国BBCのテレビカメラに振り上げた先ほどまでの勇姿はない。顔色が青い。心臓の鼓動も鈍くなってきた。狭心症の発作の予兆。胸ポケットにしのばせた薬をのみ込んだ。

 「命懸けの抗議」を近くで見守ったシアトルの民間飛行機操縦士マイク・ボガートナーさん(46)は「展示をめぐる論争が起こっているとは知らなかったが、被爆者の姿に心を動かされた」。ただ当日約七千人の入場者の中では「少数派」だった。

 「原爆投下がなければ戦争が長引き、もっと大勢が死んだ」。近くの軍事航空分析家ジョン・ショパンスキーさん(52)は、米国社会に根強い意見を迷いなく代弁した。

 売店ではエノラ・ゲイの木製模型が百八十ドルで売られている。陳列ケースを飽きずに眺める男の子の目には、博物館が主張する「当時では先進的な飛行機」としか映っていないようだった。


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銀色の脅威 エノラ・ゲイ一般公開


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