中国新聞
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2003/12/28


きのこ雲への視線 ■■
渡米の抗議 関心広げる

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論客が、相次いで発言した討論集会。抗議行動と併せ、被爆の悲惨さを思い起こさせるきっかけになった(アメリカン大)

 「パワー・イズ・プライド(力は誇り)」

 真新しいステッカーが、タクシーのさびついたバンパーに張られていた。米国ワシントン。中枢同時テロの後、そんな光景が目立ってきた。
 空港の身体検査で靴まで脱がされた。テレビニュースは毎日、テロへの警報を五段階で伝える。首都の空気は戦時下のように張りつめていた。

 米国内では、現体制に批判的な学者や有識者をリストアップして、非難・中傷の電子メールなどを送りつける動きも出ている。

 「声を上げにくい雰囲気なんだよ」。原爆投下は不要だったと主張し続ける歴史家カイ・バードさん(51)はこぼす。一九九五年のスミソニアン航空宇宙博物館の原爆展中止に関する著書「ヒロシマの影」を出版した人物だ。

 エノラ・ゲイの一般公開に先立って、現地アメリカン大の核問題研究所や平和団体が、キャンパスで開いた討論集会「二十一世紀のヒロシマ―我々は過去を繰り返すのか」では、約百五十人が熱心に耳を傾けた。

 広島県原水禁から派遣された常任理事の坪井直さん(78)のほか、全米から駆け付けた原爆や平和問題の第一人者十八人が演台に立った。

 国防総省職員から平和活動家に転じたダニエル・エルズバーグ氏は「エノラ・ゲイの展示は、米国の核兵器信奉の表れだ」と言い切った。

 被爆者の心理研究で知られる精神科医ロバート・リフトン氏は、世界を制御できると信じ、小型核兵器開発や核兵器の先制使用を公言する現政権の病巣を、「超大国症候群」と呼んだ。

 歴史学者ジョン・ダウアー氏は「圧倒的な力で相手の戦意をそぐイラク攻撃の方法は、ヒロシマとナガサキがモデルになっている」と指摘。「ヒロシマの雲の下でどんな狂気が起こったかを見つめ直す時だ」と訴えた。

 集会の運営を担った現地在住の平和活動家宮崎さゆりさん(45)は「委縮していた学者や有識者が動きだした」と話す。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、博物館で抗議する坪井さんの写真を一面に掲載。ワシントン・ポスト紙の人気コラムも、抗議に訪れた被爆者たちの証言を伝えた。

 一連の抗議行動をリードしたアメリカン大のピーター・カズニック教授(歴史学)は「被爆者の生身の姿が被害の悲惨さを思い起こさせ、関心を広げた」と感謝。エノラ・ゲイ論争と被爆者の渡米抗議は、米国のまなざしを「きのこ雲の下」に向けさせるきっかけになった。


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銀色の脅威 エノラ・ゲイ一般公開


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