english
8.6探検隊

(9)被爆者は米国を憎んでいないの

Q

被爆者は、原爆を落とした米国を憎んでいないのでしょうか。




A

人間同士の交流 心の壁克服

米国に対するテロがやまないイラクを見るまでもなく、自分の肉親を失ったり、自分が傷ついたりしたことによる憎しみは簡単には消えないよね。被爆者に、じっくり聞いてみた。

「そりゃあ、恨みつらみはありますよ」。原爆資料館の元館長で、被爆体験の証言活動を続けている高橋昭博さんは自由のきかない右手のケロイドを見せながら、そう話す。

広島県被団協の坪井直理事長も「放射線を浴びた同級生らが亡くなった。何てことをしてくれたんだ、今に見ていろと思った」と振り返る。自分も大けがを負った。1カ月以上意識がなく、戦争が終わったことを知らなかった。

被爆者たちは、人との出会いや、時間をかけることで、その気持ちに整理をつけてきたのだという。

photo
「人を憎まないこと」―。修学旅行生に被爆体験を語る山岡さん(左端)

■戦争の痛み共有

高橋さんの転機は、資料館長時代の1980年に、米軍B29爆撃機エノラ・ゲイ号の機長だったポール・チベッツ氏と会ったことだ。チベッツ氏は「同じ命令が出れば私はまたやる。それが軍人の論理であり、戦争。だから戦争をしてはいけない」と語ったという。憎しみ合いをやめなければ、戦争も原爆投下も防げない。高橋さんはそう確信したという。

思春期に顔や体のケロイドに苦しんだ女性の一人、山岡ミチコさんは55年から約1年半治療を受けた米国での体験を転機に挙げる。病院で看護師が日本語を覚え、話しかけてくれたのに「感動した」のだという。

その後、広島で被爆体験を語り続ける山岡さんに、訪れた米国の高校生たちは「原爆を落とすなんてひどい」と感想を語った。「痛みを知ろうしてくれる子が憎いわけがないでしょう」。

そうか。「国」ではなく、「人」としてふれあうことが、心を動かしたと言うことなんだ。

30、40年かけて憎しみを克服したという坪井理事長は「理性で考えれば平和が正しいと分かる」とも言う。

■ヒロシマの役目

被爆から62年。今では、紛争を経験した世界の国の行政担当者たちが、復興に向けた研修にヒロシマを訪れる。研修で講師などを務める広島大平和科学研究センターの篠田英朗准教授(じゅんきょうじゅ)は被爆者が憎しみにどう向き合ってきたかを題材に取り上げている。

「海外の行政担当者の関心は高い。その国民の心の『復興』を考える糸口になる」ととらえている。

被爆者で、学生時代に英語を勉強した「平和のためのヒロシマ通訳者グループ」の小倉桂子代表は25年以上、外国人を案内してきた。核実験やテロ、紛争の被害者の悲しみに耳を傾けることにしているという。「被爆者として戦争の悲しみを分かち合える」と考えるからだ。米中枢同時テロの遺族からは「憎しみを超える態度をヒロシマから学んだ」と言われたそうだ。「それがヒロシマの役目」と強調する。(見田崇志)


 

なるほどキーワード

  • ケロイド

    やけどや切り傷のあとにできる組織が過剰(かじょう)に増えて盛り上がった状態。広島の原爆では、被爆後30日から60日後に多く発生したとされ、刺すような痛みやかゆみがあった。