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戦争を防ぐための提案〜平和裁判所をつくろうよ〜

世界には子ども兵士が25万人以上もいるという推計があります。日本では戦争が歴史上の話になりつつありますが、今も人の命を奪う戦いをしている国や地域があちこちにあります。その中で子どもの夢や希望も失われています。

紛争が今も続くスリランカの16歳の女の子が描いた絵

ジュニアライターは今も続く戦争や紛争がどれだけあるか調べてみました。少なくとも16あることが分かりました。1月には、北朝鮮やイランの核などをめぐり「終末時計」が残り5分になりました。戦争は遠い存在ではないのです。

どうすれば無駄な血を流さずに済むのか―。全く違う世界で生きる同年代のことを思いながら議論を重ね、「ひろしま国」として武力行使を未然に防ぐ方法を考えました。現実味が薄いという声があるかもしれません「じゃあほかにどんな方法があるのだろう」。みんなが考え始めてくれるのが願いでもあります。

今も続く戦争・紛争

16の国や地域で起こっている戦争と紛争の原因で一番多かったのは領土問題(12)でした。民族問題(9)、宗教問題(6)、政権打倒や政権争い(3)、テロ(2)と続いています。いくつかの原因が重なっているものもあって、分類するのは難しいのですが、直接的な原因と思われるものを載せました。

最も多いのは欧州ですが、そのうち3カ所は旧ソ連地域です。中東やアフリカにも集中しています。アメリカ大陸では深刻なものは起きていません。(中3・吉岡逸登)

 ■ 欧州=旧ソ連地域を含む

(クリックすると拡大します)
1.コソボ紛争(1998、領土・民族)コソボ自治州独立を目指すアルバニア系住民と、新ユーゴ連邦政府とその中のセルビア政府(当時)が対立
2.チェチェン紛争(1994、領土・民族)チェチェン独立を目指す武装勢力とロシアが対立
3.アブハジア紛争(1992、領土・民族)アブハジア自治共和国として独立を目指す住民がグルジアと対立
4.ナゴルノ・カラバフ紛争(1988、領土・民族)アゼルバイジャンとアルメニア系住民がナゴルノ・カラバフ自治州を巡り対立
5.キプロス紛争(1974、領土・民族)ギリシャ系住民とトルコ系住民の対立

 ■ 中東

6.イラク戦争(2003、政権・テロ)イラクの大量破壊兵器査察などを巡って米国などが武力行使
7.アフガニスタン戦争(2001、テロ)米中枢同時テロを行った国際テロ組織アルカイダとそれをかくまったタリバン排除のため米国などがアフガニスタンに武力行使
8.レバノン紛争(1978、領土・宗教)レバノン侵攻をしたイスラエルと政治組織ヒズボラが対立
9.イスラエル・パレスチナ戦争(1948、領土・民族・宗教)ユダヤ人とアラブ人がパレスチナを巡り対立

 ■ アフリカ

10.エチオピア・エリトリア紛争(1998、領土)エチオピアとエリトリアがイイグラ三角地帯を巡り対立
11.ソマリア紛争(1988、民族・政権)特定の氏族(共通の祖先を認め合う集団)系住民を優遇したソマリア政府と反政府勢力が対立
12.スーダン紛争(1983、民族・宗教・政権)アラブ人を優遇したスーダン政府と反政府勢力が対立
13.西サハラ紛争(1974、領土)西サハラに独立国家建設を目指す武装組織ポリサリオ解放戦線と領有権を主張するモロッコが対立

 ■ アジア

14.フィリピン・ミンダナオ紛争(1986、領土・宗教)独立を目指すイスラム教徒の先住民モロ族とフィリピン政府の対立
15.スリランカ紛争(1975、領土・民族・宗教)シンハラ人を優遇したスリランカ政府とタミル人が対立
16.カシミール紛争(1947、領土・宗教)インドとパキスタンがカシミール地方を巡り対立
◇  ◇  ◇
【注】()内は勃発年、主な原因の順▽欧州は旧ソ連地域を含む▽和平合意後も対立の残る戦争・紛争を含む▽勃発について諸説あるものは闘争激化の年とした
 

平和裁判所をつくろうよ
〜世界中のだれでも訴えることができるんだよ〜

ひろしま国は、対立する当事者たちが武力行使をしないようにするための「平和裁判所」を世界に提案します。誰でも提訴でき、世界の国々がどちらが正当と考えるか、平等に一票を投じることのできる新しい仕組みの裁判所です。(高2・田辺春奈、高1・多賀谷祥子、小5・小坂しおり)


平和裁判所とは  場所はひろしま国にあり、運営費などは各国で分担します。裁判官は、世界中から選ばれた11人で構成します。議論するのにちょうどいい規模の奇数だからです。


















提  訴  訴えを受けると、裁判所はいったん、攻撃準備などの中止を命令します。次に非政府組織(NGO)などに現地調査を頼み、話し合いが必要な段階かを判断します。
 ほかの国や団体、個人などが提訴できるようにすることで、誰もが「国の偉い人」の暴走を止めることができます。今も国連の「国際司法裁判所」という機関がありますが、当事国の同意がないと裁判を始められません。その問題を解決できます。
世界投票  世界のすべての国に、どちらの言い分を支持するか、投票してもらいます。どちらに投票するかは各国が国民投票で決めます。裁判所が判決で、賠償金の支払いを命じたとき、各国はその一部をもらうことができます。
 この国民投票には子どもも参加すべきです。子どもは純粋なので、大人のように裏で取引をしません。もし戦争が起きれば、子どもも傷つき、死んでいくからです。
 投票の前には、対立する双方が子ども向けにも現状や背景を紹介するのです。みんなが世界の平和について考えるきっかけになります。
判  決  裁判所は、その集計結果をもとに、多く支持を受けた方に有利な判決を出します。
 ただし、この裁判の目的はあくまで武力行使をさせないことなので、言い分が認められた方が全面勝利とは限りません。
判決の実行  判決に従わなかったら、その国とほかの国との間で貿易できないようにします。
 たとえ判決が出ても実際に行われなかったら意味がありません。世界中の国が団結すれば、これに従わないことは国際社会の中での孤立を意味します。

イラク戦争の場合  平和裁判所がちゃんと機能するのか、2003年に始まったイラク戦争を例に考えてみました。
 開戦前すでに各国で、米英両国によるイラク攻撃反対のデモがあったので、提訴は可能でした。
 争点は、イラクが大量破壊兵器を持っているかどうかでした。このため、米国とイラクが「持っている」「持っていない」の証拠を挙げ、それぞれ主張を展開します。
 各国が投票した結果、米国の言い分が認められれば判決は「米国はイラクにあるすべての軍事・行政施設に自由に立ち入りできるが、イラクに武力攻撃してはいけない」。逆にイラクの言い分が認められた場合は、「イラクは米国に経済支援を要請できる。一方、国連による武器査察は受ける」―などになります。
 この結果、当面武力行使は回避されました。もし、立ち入り調査の中で大量破壊兵器が発見されれば、その時点で、米国側が提訴すればよいのです。

 
紛争を防ぐことを研究している
広島修道大法学部の佐渡紀子助教授

紛争を防ぐことを研究している広島修道大法学部の佐渡紀子助教授に、インタビューしました。(高1・多賀谷祥子、中2・土田昂太郎)

紛争予防について、ジュニアライターからの質問に答える佐渡助教授=左端(撮影・高2 田辺春奈)
佐渡紀子(さど・のりこ) 専門は国際安全保障・紛争予防。大阪大大学院博士課程修了。日本国際問題研究所研究員などを経て2005年から現職。広島市東区出身。34歳。

―調べてみると、16カ所で戦争や紛争が続いています。避けられなかったのでしょうか。

できたと思います。大事なことは、国連などの国際機構や非政府組織(NGO)を中心に、何が不満で何を求めているのか、現地の人の声を聴くことだと思います。例えば、国や民族同士で対立しているのであれば、その原因を調べて仲介したり、手を打つことができますね。逆に言うと今はそれが十分にはされていないということです。

―宗教上の問題で対立しているところは平和的解決が可能ですか。

宗教戦争という言葉で、背後にある対立している本当の原因を見落としてはいけないと思います。それは考え方が違うから起こるのではなくて一つの宗派の人が利益を独占したり、優遇されたりするから起こるのです。優遇される人々とそうでない人々が対話することで問題解決に導くことは可能です。

また宗教に限らず、戦争になりそうなことの背景を見極めることは重要なことです。いったん戦争が起きてしまえば、人間の命やその家族、家や思い出の品物などがなくなってしまうことを忘れてはいけません。

―今、日本は平和だと思いますか。

割と豊かで戦争もしていないから平和とも言えます。しかし、平和でない国があり、そのような国を平和にする力もないのに自分の国だけ平和だからいいというのはおかしいと思います。

―「ひろしま国」の平和裁判所案はどう評価しますか。

当事国だけでなく、ほかの国や個人も提訴できる仕組みはいいですね。内戦が起きた場合でも見逃されないから。投票した国にも利益があるのはおもしろいです。国際司法裁判所とは違って、法的にではなく、あくまで平和解決を第一に考えるというのがこの裁判所の良いところなのではないでしょうか。


佐渡先生からのメッセージが動画で見られるよ
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特定非営利活動法人(NPO法人)
「ピースビルダーズ・カンパニー」藤千慧さん

1993年から難民支援を始め、現在は特定非営利活動法人(NPO法人)「ピースビルダーズ・カンパニー」事務局を務める藤千慧さん(38)=広島市南区=に、紛争が引き起こす現実について聞きました。(中2・川本千夏)

地図

94年、タンザニアのルワンダ難民キャンプ支援に行ったときのこと―。違う民族同士の殺し合いに加え、コレラが大流行し、1日に数千もの人が亡くなっていきました。「汚染されていないきれいな水を飲もうにも、水を沸かす燃料すらなく、多くの人が亡くなるのを見て、このことを世界の人に知ってほしいと思いました」

多くの子どもが紛争の犠牲になるのも見てきました。アンゴラ紛争中の90年代後半、地雷調査で訪れた村では銃を持つ子ども兵を見かけました。10歳くらいの男の子にミニカーをあげると目を輝かせて喜んでくれました。「紛争の犠牲になるのは常に子どもたち弱い立場の人。みんなが居心地のいい社会をつくらなくては」と強く感じました。

忘れられないのは93年ごろ、ザンビアのアンゴラ難民キャンプで出会った15歳くらいのアディルソン君のこと。彼の将来の夢は医者でした。しかし難民なので入学するには、滞在許可書や推薦書などの書類のほか、ザンビア人よりも多額の授業料が必要でした。同僚と問題を一つ一つ解決していき、結局、彼はザンビアで一番と言われる大学に入学できました。「難民というだけで将来が閉ざされるのはひどい」という思いが、頑張る力となりました。

でも、皆にこのような支援をするわけにもいきません。水を引くなどの生活支援や、技術訓練などの活動を通じて「少しでも希望を与えていきたい」。そう話していました。


藤さんのアルバムから
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なるほどキーワード

  • 終末時計

    核戦争で、地球が破滅するのを午前零時とした「時計」。安全の目安となる。米国の核問題専門誌が管理。最も進んだのは、米ソの水爆実験成功を受けて残り2分となった1953年。

  • イラク戦争

    大量破壊兵器発見などを目的に米英両国が2003年3月20日、国連安全保障理事会の決議なしでイラクに先制攻撃した。フセイン政権が崩壊し5月にブッシュ大統領が戦闘終結を宣言した後も、イラクで武装闘争が激化。開戦以来の犠牲者は米軍関係者計約3000人(11日現在、米国防総省調べ)、イラクでの民間人は少なくとも5万人(11日現在、NGOイラク・ボディー・カウント調べ)に上っている。大量破壊兵器はその後の米国による調査では発見できなかった。

  • ルワンダ難民キャンプ

    1994年4月、ルワンダでツチ族とフツ族の対立から約58万人の大量虐殺(国連調べ)が起き、8月末までにタンザニアへの約58万人を含む200万人以上の難民が周辺国でキャンプをつくった。

  • アンゴラ紛争

    1975年アンゴラがポルトガルから独立した後に武装勢力の対立から始まった紛争。2002年まで。国連によると、100万人以上の死者と約400万人の国内避難民、約50万人の難民が出た。