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子どもと地域力
地区の平和 きずなが育てる

いじめや幼児虐待が後を絶ちません。問題の背景の一つには、他人への無関心さがあります。そこでジュニアライターは、自分が住んでいる地域を平和でより暮らしやすくする「地域力」に注目しました。

地域力を高めるにはどうすればいいでしょうか。大切なのは人と人とのつながりです。取材を進めると、子どもがその鍵を握っていることが分かりました。

外国の人が多く住んでいる地域では、子どもが多文化共生の橋渡し役でした。小さな島で、お年寄りから地域の歴史を学んでいる中学生に出会いました。古里に誇りを持っていました。地域の大人はそんな子どもに元気をもらっています。

私たちが取材した各地の取り組みには、平和に暮らす地域づくりのヒントがありました

文化から外国理解 広島の基町小 中国クラブ

張さん(左端)の指導で太極拳を学ぶ中国文化クラブの児童たち

「イー、アール、サン(1、2、3)…」。広島市中区の基町小で、地元の張勇(チョウ・ユウ)さん(68)が日本や中国の児童8人に太極拳を教えています。「かかとを上げて」「もっとゆっくり」。張さんが中国語で指導し、中国語が話せる児童が通訳をします。

基町小は児童133人のうち約3分の1が中国やフィリピンなどの子どもです。張さんが指導しているのは中国文化クラブです。児童は年7回、太極拳や中国の食文化を学びます。互いに文化の違いを認め合い、地域で一緒に生きる「多文化共生」を目指す学校の取り組みの一つです。

4年倉岡紅葉(くれは)さん(9)は「中国の文化が分かれば中国の友だちともっと仲良くなれそう」と話します。張さんは、妻が中国残留孤児で1995年から広島で暮らしています。「子どもたちに中国と日本の交流の懸け橋になってほしい」と期待しています。

基町小で進めている国際理解教育の効果もあって、学校や地域の行事で文化の違いを超えた交流が生まれています。PTA会長の好川猛彦さん(37)は「子ども同士に垣根はない。そんな子どもを通して親同士も理解し合えている」と話していました。(高1・西田千紗、中2・佐々木玲奈)


地元愛 世代を超えて 尾道の百島中 聞き取り活動

救急船の船長だった旗手さん(左端)から聞き取りする百島中の生徒(撮影・中2・市村優佳)

尾道市沖の百島にある百島中は、わずか8人が通う小さな中学校です。生徒は「見つめよう私たちの百島」をテーマに、総合的な学習の時間を使って島のお年寄りから聞き取りしています。島への愛着を高める狙いです。

1〜3年の4人が救急船の元船長を訪ねると聞き、同行しました。その人は2008年まで36年間、救急患者を運んでいた旗手正守(はたて・まさもり)さん(89)。「なぜ船長を続けたのですか」と生徒が質問すると、旗手さんは「代わりにやってくれる人がいない責任ある仕事だった」と答えていました。

聞き取りした3年藤田洋子さん(14)は「島のために頑張ってくれている人に出会い、地域の温かさを感じた。私も将来は地域の役に立ちたい」と話していました。

島のお年寄りや家族13人から聞き取った内容は「島に生きる」という劇にして11月の学習発表会で披露します。百島中はこれまでも島をテーマにしたビデオドキュメンタリーを制作しています。09年度は島の活性化のための写真コンテストも開きました。

吉本直也校長(57)は「教育にとって地域の力は欠かせない。子どもたちは島の人たちを元気づける力を持っている。地域と学校のつながりを強めていきたい」と話していました。(高2・岩田皆子)



百島 尾道市中心部から約6キロ沖の周囲11・9キロの離島。人口は1950年の2889人をピークに激減し、9月末現在で606人。高齢化率は64・85%。百島中の生徒数8人は、広島県内の中学校で最も少ない。

大人と交流 近所一体 廿日市の大野7区 通学合宿

大野第7区が開いた「通学合宿」。地域の大人の協力で、夕食を作る児童

廿日市市の大野地域では、小学生が地元の集会所に泊まって学校に通う「通学合宿」が開かれています。学校と地域の連携を深め、子どもの自立を目指そうと、2002年に旧大野町教育委員会が呼び掛けました。

大野第7区は、9月5日から2泊3日で合宿を開きました。毎年開き、今年で7回目です。1〜4年の24人が参加。自治会や女性会などから約50人の大人が交代でサポートしました。夕食は地元で採れた野菜も使ってギョーザやロールキャベツなどを調理。夕食後は、大人が作ったドラム缶の風呂に入りました。

大野西小4年松本玲奈(れな)さん(9)は4回目の参加です。「地域の人からいろいろ教えてもらえて楽しい。あいさつもしやすくなった」と言います。区長の山本国雄さん(72)は「合宿を通して大人と子どものきずなが深まっている。盆踊りや運動会など地域行事を手伝ってくれる子どもも増えた」と喜びます。

大野地域で通学合宿を開いている自治会は02年には1カ所だけでしたが今は6カ所に増えました。その広がりについて、合宿を提案した旧大野町の教育長、正留律雄(まさる・りつお)さん(62)は「核家族化や少子化の影響で、子どもたちは異なる年齢での交流の仕方が分からなくなりがち。その意味でも合宿は効果を生んでいる」と強調していました。(中3・石本真里奈・写真も)


まずあいさつ つながり深く 広島大大学院教育学研究科 林孝教授

はやし・たかし
専門は学校経営学。家庭、学校、地域の教育連携などを研究している。

まずはあいさつから始めよう―。地域力についてインタビューした広島大大学院の林孝教授(56)は強調します。住みやすい地域にするためには、あいさつをきっかけに人とのつながりを深めることが大切だと説きます。

―地域力を高めるために必要なことは何でしょうか。

家庭、学校、地域の連携が大切です。うまく進めば子どもにとって居場所が増え、いろんな場所で「自分が確かにここにいる」という実感がわきます。大勢の人との出会いを通して世界が広がります。大人も、自分が生活している地域をどうすれば豊かにできるか、子どもとのかかわりを通して学ぶことができます。

―私たちは何ができるでしょうか。

人とのかかわりを増やすことを意識して仕向けなければならないほど地域のつながりは弱くなっています。でも、きっかけがあれば回復します。その一つはあいさつです。その後、互いに話をする関係、名前が分かる関係へ発展するといいですね。また、困っている人がいたら声を掛けられるようにもなってほしい。

―地域力が高まると、私たちが住んでいる町はどうなりますか。

地域行事などの機会をとらえて知り合いが増えれば、暮らしやすい平和な地域につながります。学校が地域の人を集める拠点になるといいですね。

(中2・大林将也・写真も、中2・市村優佳)