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インド訪問を終えて 特別編集委員 田城明 '05/3/27

 核保有国の姿勢が鍵

 インド、パキスタンを訪ねた広島世界平和ミッション(広島国際文化財団主催)第五陣メンバー五人のインドでの活動ぶりを伝える連載「非暴力の行方」が二十六日付で終わった。

 核対峙(たいじ)する一方の当事者に、メンバーは「平和授業」などあらゆる機会をとらえて広島・長崎の原爆被害の実態を伝え、核兵器に依存しない「平和と和解の道」を求めるように訴えた。被爆の惨禍を知る広島からのメッセージは多くの市民、とりわけ若者の心を揺さぶった。同行しての実感である。

 だが、インド国民の多くはなお「核抑止力」「大国の証し」としての核保有を肯定する。

 ■NPTに反発

 一九四七年、非暴力主義で英国植民地からインドを独立に導いたマハトマ・ガンジーや、米ソ冷戦下、非同盟諸国のリーダーとして原水爆実験禁止を訴え続けた初代首相ジャワハルラル・ネールを輩出したインド。が、その精神は一部で根強く生き続けながらも、風化が進んでいるのも確かである。

 現在の政治指導者らはインドの核保有を、中国やパキスタンの脅威だけを理由に挙げるのではない。むしろそれ以上に核拡散防止条約(NPT)で、米ロ英仏中の五カ国だけに核保有を認めるNPTの差別性を強く非難する。

 九六年、印パ両国の核開発状況やジャム・カシミールの対立の実態を取材するため、四カ月近く両国に滞在し、核関連施設や紛争現場を歩いた。その時、デリーで当時野党にあったインド人民党(BJP)党首だったアタル・ビハリ・バジパイ氏にインタビューした。彼は冷静にこう言った。

 「核保有五カ国はいつまでたっても核廃絶に向けて努力しない。自分たちだけが核兵器を持ち、他国に持つなと押し付けることはできない」。そしてBJPが政権に就けば「核実験を実施する」と断言。事実、バジパイ政権が誕生した約二カ月後の九八年五月、一連の核実験を強行した。

 「同じ土俵に立たないと、核保有国は真剣に核軍縮に取り組まない」というバジパイ氏に、私は「インドの核実験は一層核軍縮を困難にし、インド亜大陸をはじめ世界の緊張を高める」と反論した。が、最後まで議論はかみ合わなかった。

 BJPはヒンズー至上主義を掲げる政党だ。昨年五月の総選挙で、BJPは敗れ、国民会議派を中心とした新政権が誕生した。しかし、自国の核兵器保有に関する限り、一部の左翼政党を除き大多数の政治家がバジパイ氏の思いを共有する。

 軍部や政治指導者はもとより、核兵器保有を支持する多数のインド人の意識を変えるには、既存の核保有五カ国がNPT第六条に明確にうたっているように、核廃絶に向けて誠実に核軍縮を進める以外にないだろう。

 バジパイ前首相の指摘を待つまでもなく、米国のようにNPTの精神に反し新しい核兵器を開発するようでは、「大国」意識の強いインド人を説得することは難しい。

 だが一方で、米国など五核保有国の核政策とは別に、被爆地からのアプローチは重要である。というのも、インド人の多くは核戦争の本当の恐ろしさを知らないからだ。核関連施設の周辺では放射能汚染や被曝(ひばく)の問題も身近にありながら、そのことに関心を向ける人も少ない。

 広島の市民グループに招かれ、パキスタンの若者たちと一緒に被爆地で体験学習した大学生ら二人とムンバイで会った。連載で紹介した通り、彼らは決して「核保有がインドの進むべき道」とは考えず、帰国後もヒロシマのメッセージを学校などで伝え、パキスタンの友達ともメール交換を続けていた。

 核戦争が何をもたらすか、その事実を伝えること。そして印パの市民、特に若者同士の交流を促進し、人間として触れ合う機会をつくり出すこと。そのことがいかに重要か、ヒロシマを体験した彼らと接するとよく分かる。

 印パの市民は今もなお自由な往来が厳しく制限されている。それだけに被爆実態とともに、「和解の心」を訴えるミッションメンバーの役割は大きいと言えるだろう。

 ■ヒロシマ学べ

 被爆十二年後の五七年十月、ネール首相が広島を訪れ、平和記念公園に参集した三万人の市民を前に「広島市民に贈る言葉」を発した。

 「われわれは水爆の発明によって一つの回答を求められている。これは再び原水爆を悪用して人類を破滅させるか、愛と仏の教え、慈悲の精神によって世界を作るかというものである。…私は”ヒロシマを学べ”と世界に訴える」

 ミッション同行中、本紙で大きく掲載されたネール首相の広島訪問記事のコピーとその英訳文を携え、「世界の偉大な平和の使徒」の「贈る言葉」を機会あるごとにインドの人々に紹介した。

 今大切なのは、インドの「独立の父」ガンジーや、「建国の父」ネールの平和思想をこそ、インド人のみならず、世界の人々が思い起こすことではないだろうか。


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