中国新聞

第1部 島で

■ 6 ■ 泥縄のツケ

 防御さく 島5周分に

「猪変(いへん)」
(02.12.15)


 竹原市沖の大崎上島。周囲三十三キロの島に、総延長百六十キロ 近いイノシシ防御さくが、ミカン畑や家の周りに張り巡らされてい る。

 「早く何とかせにゃと、バタバタして。考える間がなかった」。 広島県東野町で有害駆除を受け持つ小笠原要介さん(48)は振り返 る。異変は一九九七年ごろ、巻き起こった。

Photo
地図 イノシシよけに張り巡らせたさくを取り、ミカン畑に入る農 家の男性(大崎上島)

 ミカン畑がイノシシに次々、荒らされる。夜どころか、日中にも 現れる。「間引き作業で捨てるミカンを、後ろでじっと待っとる」 「石垣が壊された」「昼の弁当を盗み食いされた」。農家が寄る と、そんな話で持ちきりになった。

 小笠原さんは同じころ、親子十三頭もの群れを見た。「普通は 四、五頭。餌に困らないし、天敵もいないから、異常に増えてい る」。不安は的中した。被害の前線は東野町から西の木江町、大崎 町へと、島内を二、三年で横断した。

 ◇ ◇

 慌てた農家に押され、島内の三町は足並みそろえ、二〇〇〇年度 から防御さくの助成を始めた。申請は引きも切らず、気が付けば、 さくの総延長が島を五周するほどの長さになっていた。

 「はなから、山をぐるり囲うときゃあ、安く済んだのに」。最 近、ぼやきが役場で聞こえる。もぐらたたきのように、被害農家に 一軒ずつ、目先の助成金を渡した策の死角だった。

 「さくは内側を守るだけ。鉄砲や罠(わな)で、島全体の生息数 を減らさんとダメ」。大崎町で料理店を営む坂口俊則さん(62)が言 う。大崎上島地区猟友会(会長・東野町長、二十九人)の副会長。

 三町の猟友会は六年前から共同で、駆除に動いている。「もとは 皆、キジ撃ちじゃからね。協力せにゃ」と、事務局長の会社員岡田 善隆さん(57)=大崎町。シシ撃ちは猟犬も弾も違う。足跡の向きや 古さで、気配を探る眼力が要る。五年ほど、島外の猟友会に駆除を 頼み、ついて覚えた。

 ◇ ◇

 島内には、三町にまたがる鳥獣保護区がある。猟は許されない。 イノシシの隠れがだ。瀬戸内海国立公園の神峰山も区域内にあり、 猟期は駆除を手控えてきた。今季初めて解禁し、踏み込む準備を進 めている。

 同県倉橋町では、県内で唯一の猟区が、死角になった。猟区は、 狩猟してもいい鳥獣の種類や日時、入猟者数を地元の市町村が制限 できる。「冬はミカン収穫の最盛期なのに」と、猟期の事故を不安 がる農家を守るために取り入れた。

 ところが、キジしかいなかった猟区に突然、イノシシが現れた。 九三年秋、狩猟獣に加えるまで猟期に撃てず、繁殖を見過ごす温床 になった。

 倉橋町は、呉市など一市八町での合併準備が進む。新生呉市は、 イノシシ千五百頭余りの駆除を引き継ぐ。難題は、もう一つある。 駆除した死がいの後始末である。

| TOP | NEXT | BACK |