■ 3 ■ 捕食者 天敵オオカミ 保護獣に |
(03.2.20) | |||
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ニホンオオカミは明治時代、絶滅に追い込まれた。「地球上の命
はつながり合っているという生態学的な考え方が、当時はなかっ
た」。日本オオカミ協会にかかわる東京農工大の神崎伸夫助教授
(40)は話す。
東欧で随一の勢力を誇るポーランドのハイイロオオカミも、時代 の波をかぶってきた。家畜を襲う害獣として駆除され続け、一九七 五年にやっと、捕獲数に歯止めがかかる狩猟獣に変わった。狩猟禁 止の保護獣として全土で認められたのは、九八年のことである。 動物愛護に熱心なフランスの元女優ブリジット・バルドーさん が、ワレサ大統領(当時)に「オオカミ猟は野蛮」と手紙を寄せ、 風向きが変わったという。ポーランドが加盟をめざす欧州連合(E U)の諸国からも反発が強まった。
◇ ◇ オオカミの生息密度が乱高下した八〇~九〇年代のグラフに、神 崎助教授はイノシシのグラフを重ねてみた。「オオカミが増えた時 期にイノシシは減るという風に、二つの曲線は逆のカーブを描く。 オオカミはイノシシの捕食者と言える」 ポーランド全土には約十万頭のイノシシがすむ。出産期の雌を除 いて年中、ハンターに狙われる。個体数はほぼ安定しているが、近 年、山岳部では数が急に減った。 「シカへの狩猟圧が強まり、オオカミが獲物をシカからイノシシ に変えているのではないか」と現地の研究者たちはみている。オオ カミの胃袋を調べ、えじきとなった動物の比率をみてみると、八〇 年代後半には11%だったイノシシが、九〇年代前半には40%へと急 増していた。 ビエスチャディ国立公園を含むポーランドとウクライナ、スロバ キアの国境地帯は九二年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)から 「バイオスフィア・リザーブ(生物圏保存地域)」の指定を受け、 オオカミの追跡調査が続けられている。 ◇ ◇ 電波の発信器を着けて放したオオカミを追う。公園や周辺には、 推定で約二百五十頭がすみ着いている。オオカミの居住区と隣り合 わせに、民家や農地、牛や羊の放牧地が散らばる。「電波の受信 に、日本製の八木式アンテナが重宝するよ」。追跡チームのローマ ン・グラ博士(36)が調査エリアに案内してくれた。 「ピッ、ピッ、ピッ…」。アンテナがオオカミの居場所をとらえ た。「あの山だ」。でこぼこ道に車が音を上げ、泥道を歩く。山す そを流れる小川の底に、見慣れない足跡がある。オオカミだった。 途端に、一行の口数が減る。向こう岸に渡ると、えじきになったシ カが横たわっていた。 過酷な生態ピラミッド。「雪が積もると、脚の短いイノシシは動
きにくい。オオカミにとっても、冬は狩りの季節なんだよ」。グラ
博士は諭すように言った。
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