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「神宿る みやじまの素顔」    18.もみじまんじゅう
職人の心意気ぎっしり

人垣ができる手焼きの実演。興味津々のまなざしに、職人のほおは誇らしそうに緩んだ

 表参道商店街に、ほのかに甘い香りが漂う。こしあん、チョコレート、抹茶あん…。豊富な種類を競うように店先の張り紙が風に揺れ、観光客の心をくすぐる。

 もみじまんじゅう。広島銘菓の代表格として知られる。昨年春、昔ながらの手焼きの実演を、創業八十年を迎えた「藤い屋」が約四十年ぶりに復活させた。

 じっくりと温めた鉄製の型に、生地やあんを置く。火力を調節する職人のまなざしは真剣そのものだ。ころ合いを見計らってふたを開けると、ほんわかと湯気が立つ。「わあっ、おいしそう」。店頭で見守る家族連れから、声が漏れる。

 明治後期、宮島の和菓子職人、故高津常助さんが考案したといわれる。対岸の宮島口で酒店を営む孫の加藤宏明さん(53)の手元には、一九一〇(明治四十三)年七月の商標登録証書が残る。「頑固な職人だったという。島内で似たまんじゅうが作られ、申請したんでしょう」と思いやる。

 観光ブームに沸いた一九七〇年代以降、土産物店やホテルも加わって製造業者は一気に増えた。呼応するように、小豆の皮むきや生地づくり、型への流し入れに機械化が進んだ。

 柔らかさが長持ちするように材料を配合したカステラ生地、ムラのない焼き具合…。「しっとりしたあんが、カステラ生地と一緒に口の中でとろけて甘みを醸し出す。職人の腕の見せどころでした」。この道に十五歳で入った川上君晴さん(70)が、職人の心意気をぶつ。

 生ゆでの小豆の皮を丁寧にむいて炊き、水で何度もさらしてこす。ザラメと煮て、ふじ色に仕上げる。それが、一流の証しだった。「手焼きは一つ一つを心を込めて作れた。機械化されても、その気概と伝統の味は変えたらいけん」。後進に日々言い聞かせる。

 「まあ、焼きたてを食べてみんさい」。勧められた手焼きまんじゅうの表皮は、「サクッ」と小さな音を立てた。その味は温かく、ほどよく甘いあんと絡まって溶けていった。

−2006.3.5

(文・梨本嘉也 写真・藤井康正)


もみじまんじゅう 考案者といわれる高津常助さんの孫、加藤宏明さんによると、老舗の旅館「岩惣」の仲居頭から「紅葉の形をしたおまんじゅうを作ったら」とヒントをもらったと聞いて育った。戦前は「宮島焼き」「宮島まんじゅう」とも呼ばれたという。現在、島の製造・販売業者は19社。ミカンとレモンを白あんに練り込んだ「ひろしまフルーツもみじ」など年々バラエティーは豊かになり、対岸の宮島口では通常の2倍以上の「デカもみじ」も販売される。 地図


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