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「神宿る みやじまの素顔」    20.ミサゴ
森と海がはぐくんだ翼

魚を探してか、カキひびから飛び立つミサゴ。よほど宮島はすみ心地がよいのだろう(600ミリレンズにテレコンバーターを使用)

 薄れ日の午後、大江浦で船に揺られる。山にはもう険しい表情はない。風は冷たいものの、土のような、木の芽のようなにおいが鼻をくすぐった。木々の間から鳥のさえずりが盛んに響く。そこかしこに春がある。

 「水面ぎりぎりまで急降下したら、翼を上にそろえて海に突っ込む。飛び立つ時には魚をがっちりつかんどる。そりゃあ、見事なよ」。島の鳥を撮っている地元の藤山尚志さん(65)にミサゴの狩りの話を聞いた。島にすむタカの仲間。ボラやスズキなど魚を捕って食べる。その狩りを見たくなり、海へ出掛けた。

 空に円描く鳥を双眼鏡でのぞく。またトビだ。ミサゴは腹部や翼の内側が白いのが特徴。島の生息数は二十つがい余という。簡単にはお目にかかれないのだろうか。

 その瞬間、小さな点のような影が山の向こうから現れた。遠いが白い腹がはっきり分かる。大きく悠々と舞っている。徐々に下降し、眼前の山に。足には何やら細長いものが見えた。

 岩肌のぞく島の峰。高いがけの、ひょろっと伸びた松の頂に舞い降りた。そこにもう一羽。つがいだ。つかんでいた小枝で、巣を整えている。

 島では近年、繁殖数が増えてきたという。だが、そこへ毎年のように台風禍。昨年夏、弥山登山愛好会の大田勝一さん(64)=廿日市市=が確認した二十四の巣も、すべて吹き飛んだ。

 それでもミサゴは島から離れない。大田さんは「条件が合っとるんでしょう」とみる。「原始林の松は、巣作りにちょうどいい枝ぶり」。その昔、神域だった島の木々は伐採が禁じられた。希少な鳥をはぐくむ環境が整ったのだろう。「神の島なら森を大事にせんと…。鳥に見放され、人も来んようになる」。藤山さんは力を込める。

 海面近くで追いかけっこをしたり、巣作りに戻ったり。どうやら狩りをする気はないらしい。今度は傾き始めた日の方へ。たなびく霞(かすみ)に消えた。

−2006.3.19

(文・田原直樹 写真・田中慎二)


ミサゴ タカ科の留鳥。全国の沿岸部や河口、湖沼に生息する。全長はオス54センチ、メス64センチ。トビとほぼ同じ大きさ。翼を広げると1.55―1.75メートル。包ケ浦や大砂利など沿岸各地で魚を捕る。2月下旬ごろから松の樹頂に営巣し、2―4個産卵。ヒナは夏には巣立つ。繁殖地への人の侵入や森林開発で生息条件が悪化し、レッドデータブックでは準絶滅危惧(きぐ)種とされる。 地図


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