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「神宿る みやじまの素顔」    26.海食門
波が彫刻 岩場のアート

今日も波が洗い、風が抜ける海食門。海側には、もう一つ穴が開いていた

 大きな岩肌にしがみつく。滑らないよう慎重に小さな岩々を伝い歩く。やっとの思いで浜辺に立つと、不思議な造形が見えてきた。

 奇妙な岩だった。二つ開いた穴は高さ四メートル近くある。冬の大潮の夜、宮島で漁(いさ)りをする島民と鷹ノ巣浦を歩いていて出会った。懐中電灯で照らし、岩肌をなで、何度もくぐった。もう一度、昼間に見ようとやって来た。干潮というのに砂浜は現れておらず、波打つ磯を進んだ。

 「海食門(かいしょくもん)ですよ。二つ並んできれいな形だなあ」。広島県文化財協会理事の片山貞昭さん(76)が言う。「何千年もかかったでしょう」。花崗岩でできた宮島。波風が岩を削りとり、人知れず、見事な景観を形づくる。

 片山さんは十年以上も前、大学教授らと島の海岸線を調べた。「海食洞や波食棚、砂州など、ほかにもユニークな地形がたくさんある。興味深い島です」

 満潮時は島になる聖崎の蓬莱(ほうらい)岩、石垣状に岩壁が切り立つ革篭(こうご)崎、悲恋物語が伝えられる内侍(ないし)岩など、島の海岸は多彩な表情を持つ。包ヶ浦神社は岩塊「包のエビス岩」に、御床(みとこ)神社は亀甲状に裂け目が走る岩台に鎮座する。

 「厳島道芝記」にも興味をそそる名が見える。千献(せんこん)岩、烏帽子(えぼし)窟、鬼岩…。「昔の人はさぞかし不思議がったでしょうね」。その姿は、神の業とも感じさせる、何か大きな力を思わせた。

 波音だけが響く浜を見回す。巨岩が迫っている。波や強風に洗われたのだろう。五、六メートルの高さまで岩肌がむき出しになっている。幾筋もの断層が走り、割れ目に残ったわずかな土に、木が根をはわせている。力尽きて落ちた木は白く干からび、横たわる。険しい風景が広がっていた。

 どれほどの時間が島をつくったのだろう。この先、どう姿を変えるのだろう。そんなことを思いながら、潮が満ちてきた磯を戻る。岩肌を転がり、ヤブツバキの花が落ちてきた。とても鮮やかな赤色だった。

−2006.4.30

(文・田原直樹 写真・田中慎二)


海岸地形 約6000年前、海面上昇によって宮島は本土から離れ、島となったといわれる。波の力で陸地部が削られ、海岸が後退した。岩の断層や節理(岩石中の割れ目)が削られてできた穴を海食洞、穴が突き抜けると海食門という。さらに天井が落ちると、離れ小島になる。御床浦などの岩台は、岬が浸食で後退した後に残される平たい地形。 地図


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