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「神宿る みやじまの素顔」    27.表参道
つなぐ灯 客の顔思って

修学旅行生が行き交う夜の表参道商店街。「何を買おう…」。選ぶ目は真剣そのものだ

 とっぷりと日が暮れた。人影がまばらになった桟橋から厳島神社を望む。石灯籠(どうろう)の穏やかな光が岸辺を縁取る。

 道すがら表参道商店街に入った。物産店の明かりがまぶしい。「おみやげどないしよう」「もう門限。先生にしかられる」。しゃもじやキーホルダー、もみじまんじゅうが、所狭しと並ぶ店の奥から、修学旅行生の元気な声が響いてくる。

 島のにぎわいは、交易の拠点として栄えた江戸時代にさかのぼる。厳島神社への参拝、芝居や富くじ、遊郭…。はるばる四国や九州などから何百隻もの船で商人が押し寄せた。季節ごとに年四回の市も立った。

 土産物も色楊枝(ようじ)、五色箸(ばし)から宮島杓子(しゃくし)、宮島彫と増え、明治時代にはもみじまんじゅうも加わった。高度経済成長期の観光ブームを迎えた時、そのにぎわいは、町家通りから表参道へと移っていた。

 昼間の商店街は、カキの殻焼きやあなごめし、もみじまんじゅうの香りが満ちあふれ、観光客を誘う。ただ、午後五時を過ぎると、おしなべてシャッターを閉めるようになった。

 一九五〇年代から島の経済を支えてきた修学旅行も、少子化や海外志向、学校週五日制などの影響を受けて、減ってきた。後継者不足が追い打ちをかけ、空き店舗には島外からの資本も入る。

 「商船桟橋が使われていた三十年ほど前は、最終便の出る午後十一時まで店を閉めたりせんかったよ」。祖父の代から商店街の入り口で物産店を営む小林武さん(54)。「島に泊まってもらっても、夜は店が開いとらん、と思われたらいけん」と、季節を問わず午後十時まで営業する。

 しもた屋をなくそう−。商店街の地道な取り組みもあってか、数年前から明るい兆しも見えてきた。店を支える後継者が島に戻り始めた。遅くまで、のれんを降ろさない店も広がりつつある。

 「はよ行かな。大鳥居のライトアップ見られへんで」。土産を買い終えた修学旅行の子どもたちが、勢いよく商店街を駆け抜けていく。潮干狩りでにぎわった昼間の浜は姿を消し、群青色の波がさざめく夜の顔へと変わっていた。

−2006.5.7

(文・梨本嘉也 写真・藤井康正)


表参道商店街 10年前、厳島神社が世界文化遺産に登録されるのに合わせて、「宮島本通り商店街」から改称した。約350メートルの通りには物産店34、もみじまんじゅうの製造・販売店11、飲食店16、宿泊施設2など約70店が並ぶ。商品が日焼けするのを防ぐアーケード風の「日よけ」に互助の精神が息づく。梅雨時期には雨をしのぎ、夏は涼を求める観光客の姿も見られる。 地図


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