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「神宿る みやじまの素顔」    28.イワタイゲキ
砂浜に群落たくましく

鮮やかな黄緑色で浜を染めるイワタイゲキ。その姿を精いっぱい主張しているように見えた

 その花は、五月の砂浜に咲いていた。青々と広がる松林に沿って、まばゆいばかりの黄緑色が辺りを染める。雨に打たれているせいなのか、かんきつ系の甘酸っぱい香りを漂わせる。

 イワタイゲキ。島の浦々で、満開を迎えている。花に見えるのは、長さ七―二十ミリの包葉(ほうよう)。中心にある小さな花を優しく包み込むように、黄緑の葉を広げる。海水にさらされる砂浜や岩肌に根を張り、草丈が八十センチ近いものもある。見渡すだけで、その株数は、ゆうに百は超えていた。

 「広島県内でこれだけまとまって見られるのは宮島だけ」。広島大宮島自然植物実験所の坪田博美助教授(32)から教えてもらった。「昔は瀬戸内海の海岸部で当たり前に見られた。いまでは自然保護の象徴と言っていいね」

 高度経済成長期を迎え、自然海岸は埋め立てや護岸工事などで姿を消した。自生地は次々に破壊され、県のレッドデータブックでは準絶滅危惧(きぐ)種に登録される。全島が国立公園だった「神の島」では、その群落が守られた。

 環境保護に取り組む宮島地区パークボランティアの会は昨年、宮島で海岸植物の調査をした。イワタイゲキのほか、七月ごろに紫色の花をつけるハマゴウも目立った。村上光春代表(66)=広島市佐伯区=は「毒性が強く、シカの食害に遭わなかったのもよかった」という。

 安心はできない。海流の変化で砂浜が削られたり、台風で流れ着いた大量のごみに覆われて枯れてしまったり…。海水浴やキャンプを楽しむ若者が、砂浜を車で走り回って傷めるケースも少なくない。

 「市民に呼び掛けて海岸清掃し、希少な島の動植物を調べたい。たくさんの人に知らせ、大切にしてほしいんです」。村上代表は描く。自然植物実験所も、島の浦や岩場をくまなく回り、本格的な個体数の調査を計画する。

 潮風を浴びながら、瀬戸内の島々を望む北東部の磯を歩く。花こう岩の割れ目にしっかり根を張るイワタイゲキに出合った。その姿は、威厳さえ感じさせる。「島の小さな見張り番」。ふと、そんな言葉が浮かんだ。

−2006.5.14

(文・梨本嘉也 写真・藤井康正)


イワタイゲキ トウダイグサ科。漢方薬に用いる大戟(たいげき)の仲間。岩場に生育することから名付けられた。本州(関東以西)、四国、九州、琉球列島、朝鮮半島南部、台湾に分布。包葉の中にある花のように見える部分は「杯状花序」。受粉すると雌花は垂れる。7月ごろ果実が熟し、種子ができる。 図


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