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「神宿る みやじまの素顔」    41.御床神社
波間に浮かぶ亀裂 厳か

亀甲状の裂け目を刻んだ岩台。御床浦には穏やかな波が寄せていた

  海にせり出した巨岩。岩の上は平らで広く、まるで舞台のようだ。表面に亀裂が縦横に走る。岩の上に鎮座するのは御床(みとこ)神社。だれもいない浦の、不思議な造形と小さな社が、厳かな雰囲気を漂わせる。

 「神様を祭るのにふさわしい場所。まさに神宿る岩ですね」。島の山歩きを楽しんでいる広島市西区の国本直美さん(62)は感嘆する。道のない御床浦を、やぶをかき分け、何度も訪れた。

 仲間と岩に腰を下ろして休むひととき。「大野瀬戸を眺めたり、御床山を見上げたり。亀裂を見ながら島の歴史や伝説に思いをめぐらすのも楽しい」

 厳島神社の末社の一つ。島に渡ってきた神様を最初に祭った所との言い伝えもある。厳島神社の神紋「三亀甲(みつぎっこうに)剣花菱(けんはなびし)」は、岩台に走る亀裂の模様をかたどったとされる。

 願をかけながら、七つの末社を船でめぐる御島廻(おしままわり)式。杉之浦神社から順々に巡り、御床神社が最後となる。かつては岩に上がり、社前で神職が祭文を読み上げた。「厳島道芝記」などの挿絵を見ると、広い岩の上に願主たちが居並び、かしこまっている。

 「恐れ多い神の領域に入り、祈願するのが御島廻。昔は大変重い神事だったんです」。鈴峯女子短大の松井輝昭教授は、島巡りが単なる参詣・祈願ではなく、神との交流でもあると考える。

 「七社を巡ると、島の神に接し、その存在を実感できた。言いようのない喜びがあるからこそ、現代まで脈々と続いているんでしょう」

 島を海岸伝いに歩いて一周したことがあるという国本さん。砂州や岩場に立つ七社も参詣した。いわば徒歩での御島廻。「へとへとになったけれど、たどり着いた社にさい銭をお供えすると、その度に感激がありましたね」

 潮が少し引いたようだ。海中にあった岩盤や亀裂も、その姿を見せてくる。波が寄せては引き、夏の日がゆっくり過ぎていく。

−2006.8.13

(文・田原直樹 写真・藤井康正)


御床神社 御床浦に突き出た岩台に鎮座する。約1400年前の推古天皇時代、島の佐伯鞍職(くらもと)が岩の上に仮御殿を建て、厳島女神に、神社造営までの間、滞在してもらったとする言い伝えもある。巨大な花こう岩の風化により形成された岩台は、上面が幅7メートル余り、広さは約34平方メートル。自然にできた亀裂のほか、地震や波浪によるものと思われる亀裂が走る。 地図


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