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「神宿る みやじまの素顔」    42.花火
空に 水面に 光の扇舞う

大野瀬戸に大小の花が開く。暗い海が七色に染まった

  光の扇が開く。金色に赤や緑、紫…。大鳥居を包むように大きく広がり、そして消える。厳島神社前の干潟。わき起こる歓声に続いて、大音響と振動がズシンと伝わってきた。

 三十四回目を迎えた宮島水中花火大会。島は四万六千人もの見物客であふれかえった。大輪や枝垂れて注ぐ光の筋が、夜空を焦がし、水面を染める。

 モミジやシカの形も描き出された。七つの物語で構成された光のドラマは、その演出と技で魅了する。子どもたち、お年寄り、若いカップル。照らし出される顔はみな、ほほ笑んでいる。

 「花火に鳥居のシルエット。それなら見栄えがして、観光客も呼び込めると考えたわけです」。大会が始まった当時、宮島観光協会の理事だった山田勲さん(77)は振り返る。当初は、打ち上げ花火ばかりだった。よそと違う、宮島ならではの大会にと思案し、間もなく水中花火を導入した。

 花火師が点火した玉を、走行する船から海に投げ入れる。鳥居沖の海上に、半円球の光が広がる。尺玉(三十センチ玉)だと直径約三百メートルになる。水中尺玉を百発も披露する大会は、ほかにない。「絵になる」花火として、全国で最も多く写真愛好家を集めるゆえんだ。

 「神の島の花火大会。失敗もあったが、たくさんの人に楽しんでほしくてね」と山田さん。滝を模したナイアガラ、花火で繰り広げた源平合戦…。「お客さんに集まってもらうだけじゃなく、厳島神社に奉納するという思いも持ってましたよ」。協会の会長を務めた十五年間、趣向を凝らした企画にも挑んだ。

 歴史的建造物や峻厳(しゅんげん)な自然など魅力の多い島。試行を重ねてきた水中花火も、すっかり夏の風物詩に育った。「毎年見ながら思うんです。島に生まれてよかった、いうてね」

 夏の宵、神とともに楽しんだ光の宴。桟橋までの帰り道を人波にもまれながら、胸の内には残映と余韻がある。満ち足りた気分でいた。

−2006.8.20

(文・田原直樹 写真・田中慎二)


宮島水中花火大会 厳島神社の大鳥居沖約500メートルの海上で繰り広げられる。花火約5200発のうち呼び物の水中花火は200発。長野県の花火師13人が台船から打ち上げ、船から投げ込む。1973年、宮島納涼夏祭として打ち上げを始め、第3回の75年から水中花火大会に(同年は業者が他都市で事故をしたため中止)。今年の見物客は島側約4万6000人、対岸で約21万人にのぼった。 地図


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