社説・天風録
(社説)パグウォッシュ会議 「広島宣言」行動で示せ '05/7/28

 核兵器廃絶を目指すには、核開発や平和問題にかかわる科学者の行動と発言が欠かせない。その重責を負う世界の研究者が広島に集い、議論を重ねたパグウォッシュ会議の第五十五回年次総会がきのう、「広島宣言」を発表して閉幕した。

 被爆六十年の節目の年に被爆地で原点に立ち戻り、話し合った意義は大きい。広島と長崎で起きたことは断じて繰り返されてはならない―として核兵器禁止条約の締結を呼び掛ける広島宣言は、ヒロシマの願いでもある。核兵器保有国は宣言を真剣に受け止めるべきである。

 十年前に日本で初めて開かれた広島大会から軍縮は進んでいない。それどころか、核兵器をめぐる国際情勢は危機的状況にある。米中枢同時テロを境に「核使用のテロ」への恐怖も高まっている。会期中、エジプトで同時爆弾テロが起きたのも衝撃的だった。

 北朝鮮が「核保有」をちらつかせるなど、核兵器を政治的な武器として利用しようとする国も増えている。米国は使用可能な小型核兵器の開発を表明し、今年五月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は成果を挙げることができなかった。

 こうした中、科学者はどう核廃絶への役割を果たすのか。

 一つは核分裂性物質をきちんと管理し、処分することだ。会議でも核保有国である中国やパキスタン両国の研究者が緊急に核兵器廃絶へ向けた実践を始める重要性を訴えた。発言にとどまらず、実際に自国の政府指導者や国際機関へ働き掛けてもらいたい。

 多くの科学者から「核廃絶へ向けて世論喚起を図ろう」との提起も相次いだ。会議に先行して開かれた「ヤング・パグウォッシュ会議」では、国際政治などを学ぶ三十五歳以下の研究者や大学院生らが被爆や戦争の体験を継承する方法を話し合った。若い研究者の積極的な取り組みは頼もしい。

 被爆者の証言が初めて年次総会に組み込まれ、多くの科学者が耳を傾けたのも特筆すべきことだ。被爆体験談は参加者の心を大きく揺さぶったようだ。「パグウォッシュ会議として原爆展を米国で開いてはどうか」。こんな提案もあった。できることから試みたい。

 ただ、会議の影響力低下を懸念する声が聞こえてきたのは気になる。世界的な知識層を幅広く結集できたと言えるのか。東西冷戦当時は核兵器廃絶は緊急課題だったが、近年は環境破壊や貧困、飢餓などを最優先課題とする見方もあるだろう。会議の在り方を見直す時期なのかもしれない。

 会議のきっかけとなった一九五五年の「ラッセル・アインシュタイン宣言」を思い起こしてみよう。「われわれは一人の人間として、人間に向かって訴える。あなたが人間であることを思い出してほしい」。核による人類存続の危機を警告したメッセージは今も心に響く。

 十年前にノーベル平和賞を受賞した同会議。今後、非核、非戦にどう具体的な道筋をつけていくのか。問題は多面的で複雑なだけに、その道のりは険しいが、科学者の立場で核の脅威を訴え続けてもらいたい。


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