社説・天風録
(天風録)被爆者の声に耳を傾けよう '05/8/7

あの日から六十年。広島は深い祈りの一日になった。節目の年とあって、平和記念式典にはいつもより多くの人が集まり、「三権の長」のあいさつもあった。小泉純一郎首相も五年連続の参列である▲回数だけみればけっこうなことだ。しかし、被爆者は小泉首相の広島訪問を素直に喜べない。最初の二〇〇一年こそ原爆資料館、原爆養護ホーム、被爆者代表からの要望を聞く会など精力的にヒロシマを駆け巡った。ところが、二回目からは「人が変わった」ように見える▲まず、「核兵器の廃絶に全力で取り組む」と毎年同じ紋切り型の首相あいさつ。それに下を向いてぼそぼそと原稿を読む。まるで覇気が感じられない。歴代首相が続けてきた「聞く会」を欠席し、式典が終わると五分ほどの会見で「逃げ去るように」広島を離れている▲今回、河野洋平衆院議長や尾辻秀久厚労相らは、被爆者のお年寄りが暮らす原爆養護ホームを訪問した。ところが、首相は式典後すぐに福山市の中川美術館へ向かった。中国美術の鑑賞という個人的趣味を優先したようだ▲唯一の被爆国の首相が、なぜ被爆者の声を聞こうとしないのか。まるで、嫌々ながら式典に参列しているようにさえ思える。郵政民営化法案の参院採決を控えて、気もそぞろという見方もある▲被爆者の祈りは、多くの犠牲者の追悼とともに、核兵器廃絶への願いが込められている。その祈りに耳を傾けてこそ、被爆国の首相といえる。

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