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(天風録)伊青年と「屍の街」 |
'06/7/24 |
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原民喜や峠三吉は教科書にも載ったので、若い人も知っている。ところが、被爆作家大田洋子となると急に知る人が少なくなる。「広島花幻忌の会」が広島市中央図書館で二十二日に開いた研究会で、イタリアから来た青年がその洋子の文学を語った▲広島大学に留学中のフランチェスコ・コモティさん(26)。原爆文学を研究する外国の若者とは心強い。洋子の「屍の街」を「人類全体にとっての必然的な作品」と高く評価する▲日本のアニメやコミックに触れて日本文化に興味を抱いた。日本語を勉強し、ベネチア大学で日本文化を学ぶ。最初に出合った原爆文学が、井伏鱒二のイタリア語版「黒い雨」だった▲日本語も上達し、洋子の「半人間」「屍の街」へと読み進んだ。極限状況を生き残った者として、人類の存在への危険を排除しようとする、洋子の文学の試みの猛烈さにひかれたという▲「屍」と生者のコミュニティーとしての「街」は、矛盾を持ったタイトルだという。原爆の全体像は一人の視野には収まらず、一人一人の死に方しか描けない。人間の一貫した存在を回復させるには…。洋子は矛盾を基盤として、人間の物語の再生を図り、原爆を糾弾している、ととらえる▲若い人が読もうにも、洋子の作品は絶版になって、古本屋か図書館でしか見られない。よく売れる本しか流通しない今の日本の文化事情が寂しい。せめて広島にあるべき本はあってほしい。
    
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