中国新聞オンライン
中国新聞 購読・試読のお申し込み
サイト内検索
【天風録】二つの原爆映画 '07/7/2
若者であふれる東京・渋谷。「一九四五年八月六日に何があった?」「さあ」「地震?」…。誰も答えられない。スティーブン・オカザキ監督(55)のドキュメンタリー映画「ヒロシマナガサキ」はこんなシーンで始まる▲「人間はぎりぎりの時に生きる勇気と死ぬ勇気を二つ並べられるんじゃないかな。(自殺した)妹は残念ながら死ぬ勇気を選んだんですけど、私は生きる勇気を選びました」「(原爆投下に)同情も後悔もない」▲十四人の被爆者と原爆投下に関与した米国人四人の言葉だけで紡ぐ。解釈しない。押し付けない。普通の人々の力強い、人間的な物語をそのまま伝える。それが監督の狙いだ▲平和学習が苦手だった。蒸し暑い教室、生々しい映像、大事だとわかっていても重たかった。漫画「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」で、被爆後の生活を柔らかく描いた広島市出身のこうの史代さん(38)もそうだった。執筆の動機は、知りたくても機会に恵まれない人の存在に上京して気づいたからと後書きに記す▲同名の映画が完成した。つましく暮らす主人公は、「ありがと」をよく口にする。「が」にアクセントのある広島なまり。生き残った罪悪感と、「もっと生きたい」という願いが染みてくる▲両作品とも語り手が被爆したのは子どもの時。これからヒロシマ、ナガサキを語り継ぐ世代と同じだ。肩の力を抜いて見て、まず知って、感じてほしい。下旬から八月にかけて全国で公開される。

MenuTopBack