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【社説】米露軍縮合意 核なき世界の第一歩に '09/7/8

 世界で実戦配備された核弾頭の9割以上は、米ロのものである。オバマ米大統領が提唱した「核兵器のない世界」の実現は、両国自らの核弾頭削減がスタートラインになる。

 オバマ大統領は主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)前に、メドべージェフ大統領とモスクワで会談した。12月に失効する第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約について「戦略核の弾頭数」と「ミサイルなどの核弾頭運搬手段」について、具体的な上限数の達成を定めた共同文書に署名した。

 米ロが実質的な交渉開始から3カ月で枠組み合意にこぎつけたことで、後継条約の年内締結に明るい見通しが開けた。両国がさらに大胆な核軍縮に向けて指導力を発揮することを、被爆地広島としても期待したい。

 両首脳は後継条約で、発効後7年以内に「弾頭数」は1675〜1500に、「運搬手段」は1100〜500にまで削減することを決めた。

 弾頭の上限数は2002年の戦略攻撃兵器削減条約(モスクワ条約)で定めた2200〜1700を下回り、過去最低水準だ。

 モスクワ条約には、削減の状況を確かめる規定がなかったが、後継条約では「検証措置」を盛り込むことで一致した。軍縮への信頼性が高められる見通しである。

 ロシア側が反発していた米ミサイル防衛(MD)関連施設の東欧配備については、結論を先送りした。「まだ食い違いが残っている」(メドベージェフ大統領)が、核軍縮を進めることを優先させたい双方の思惑が反映された結果といえる。

 MDに関しては、米国はあくまでイランや北朝鮮などの脅威に対抗するため、としている。一方で、チェコとポーランドへの配備については変更に含みを持たせている。最大の対立点であるMDでも水面下の歩み寄りが進んでいる可能性がある。

 米ロ関係は、MDや北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大で対立し、昨年のグルジア紛争をめぐり「新冷戦」と評されるまで冷え込んだ。

 だが、今回の枠組み合意では、米国が対テロ作戦で最優先するアフガニスタンで、ロシアが米軍事物資の国内通過を認めることも決定。テロに一致協力して立ち向かう姿勢を示した。「リセット」から「協調」に踏み出したことを評価したい。

 核拡散防止条約(NPT)は核保有5カ国に核軍縮の義務を課しているが、米ロはこれまで後ろ向きだった。交渉に誠実に取り組む姿勢を示したことで、北朝鮮やイランに核開発の中止を迫る上でも説得力を持つだろう。

 オバマ大統領は4月、プラハ演説で核廃絶の実現を目指すと宣言した。今回は、その具体的な第一歩になる。核軍縮への期待が各国に広がっている。米ロの核弾頭の大幅削減をてこに、NPT体制の再構築につなげたい。


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